第25話 遺跡の記憶
森を抜け、川を越え、霧に包まれた谷を進んだ先に、それはあった。
苔に覆われ、崩れかけた灰色の石造りの建物――。そこはまるで、大地そのものが息を潜めて守り続けてきた「棺」のようだった。
「……これが、人間の遺跡……」
ミラが小さく呟く。声は震えていたが、その瞳は真剣そのものだった。
扉の代わりに大穴が開き、内部にはひんやりとした空気が漂っていた。
レイたちが足を踏み入れると、壁一面に焼け焦げた跡が広がり、黒く煤けた鉄の匂いが鼻を突いた。
「爆発の跡だな……」
カイが低く言った。鼻をひくつかせ、耳を立てて警戒している。
「獣の爪痕じゃない。もっと……冷たい力の痕跡だ」
奥へ進むと、ひび割れたスクリーンの残骸や、歪んだ金属の機械が散らばっていた。
ミラは指先で触れ、心で感じ取ろうとした。
──その瞬間、彼女の頭の奥に映像が流れ込む。
燃え上がる都市、空を裂く閃光、叫ぶ人々。
そして灰色の空の下、倒れていく獣や鳥の姿……。
「……っ!」
ミラは息を呑み、よろめいた。
レイがすぐに支える。
「どうした!?」
「……見えたの……。ここで、何が起きたか……」
ミラの頬に涙が伝う。
「人間が……自分たちの手で、世界を焼き尽くしたの……」
仲間たちは言葉を失った。
一人の若い戦士が震える声で言った。
「じゃあ……昆虫属や爬虫属が人間を憎むのも……当然じゃないか……!」
カイは拳を握りしめた。
「でも、俺たちは違う!レイも、ミラも! ここで過去を変えることはできなくても、未来は選べる!」
レイは壁のひび割れに手を当て、深く目を閉じた。
「……そうだ。俺たちは、もう同じ過ちを繰り返さない。そのために、この遺跡が示した真実を背負っていく」
沈黙の後、ミラは涙を拭い、仲間たちを見渡した。
「この記憶を忘れない。……でも、それ以上に、これから出会う命を守りたい」
その声は小さかったが、遺跡の冷たい空気の中で、確かに響いていた。
過去の亡霊に触れた彼らは、もはや後戻りできない。
ここから始まるのは、人類とすべての種族の「未来」をかけた戦いだった。
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