第20話 孤高の女王

 戦場の空気は赤黒く、木々は裂け、地面は爪痕で埋め尽くされていた。

 女王の存在そのものが、森のあらゆる生命を圧する。


 「ふふ……よくぞ私の前に立ったな、人間よ、そしてリザード」

 女王の声が響く。冷たく、だがどこか遠い哀しみを含んでいた。


 レイは剣を握り直し、将軍の巨躯の隣で身を低くした。

 「どうして……女王は、こんなことを……」

 カイが低く唸る。

 「ただの征服者ではない。何か理由がある……それが分かれば、戦い方も変わるかもしれん」


 女王は大きく息を吸い込み、戦場の全てに意識を広げる。

 その中で、かすかな回想がレイの意識に流れ込む。


 ──遠い記憶。

 若き日の女王は、族の中でも最も弱く、排斥され、孤独の中で生き延びてきた。

 兄弟たちは争いに明け暮れ、愛情はほとんど与えられず、ただ生き残るための力だけが教えられた。

 その孤独が、冷酷さと支配欲を育んだのだ。


 「人間……お前たちの進化など、恐ろしいと同時に羨ましい……」

 女王の声が心に響く。

 「私もまた、変わりたかった……だが、力に縛られ、孤独を背負ったまま……」


 将軍の爪が微かに震える。

 「……女王にも、心があったのか」

 レイは剣を握り直し、隣で息を整える将軍に目を向けた。

 「でも、だからって……民を巻き込むのは許されない!」


 女王は戦場の中央で、巨大な尾を振るい、森を裂く。

 その動きの一つひとつが、孤独と怒りの化身のようだった。


 ──孤独、恐怖、羨望、憎悪。

 女王の心は矛盾の渦の中で渦巻き、それがこの戦いを生んでいた。


 レイは心の中でつぶやいた。

 「戦うだけじゃなく、女王の心の奥まで届く可能性がある……」


 将軍もまた、心の奥で呟く。

 「彼女をただ斬るだけでは……終わらない。理解し、共に止める道を探すべきだ……」


 戦場はまだ終わらない。

 だが、レイと将軍の目には、新たな光――女王の過去と目的を理解し、未来を変える可能性が映っていた。

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