第19話 女王降臨

巨兵を撃退し、森の一角に一瞬の静寂が訪れた。

 しかしその静寂は、嵐の前の凪にすぎなかった。


 突然、空が裂けるように赤黒い光が走った。

 轟音と共に、女王そのものが戦場に降り立ったのだ。


 黄金の瞳は冷たく輝き、月光よりも鋭く戦場を照らす。

 鱗は闇を纏い、尾が振り下ろされるたび、地面は大きく抉られ、木々は裂け飛ぶ。


 「……来たか」

 レイは剣を握り直し、カイや仲間たちと共に前に出た。

 将軍も傍に立ち、その巨躯で守りの壁となる。


 女王の足元から影のような力が広がり、戦場に立つ全ての者の心を震わせた。

 ――恐怖、疑念、焦燥。


 「人間……お前たちは進化などしても、我が前では無力」

 女王の声は戦士たちの脳裏に直接響き、揺らぎを生む。


 しかしレイは目を閉じ、深呼吸した。

 心の中で将軍に呼びかける。

 「将軍! 今こそ信じ合う時だ! 俺たちは互いを裏切らない!」


 将軍の瞳が光を帯びる。

 かつて女王に縛られていた忠義と、今ここで人間を守ろうとする決意が激しく交錯した。

 「……ならば、この力を貴様に跳ね返す!」


 二人の呼吸が合わさる。

 剣と爪が空気を切り裂き、女王の前に一道の光となって突き進む。


 女王は笑った。

 「フッ……なるほど、私を恐れぬ者が現れたか」

 その声には、圧倒的な自信と冷酷な知性が宿っていた。


 戦場の空気がさらに緊張する。

 女王の降臨により、巨兵たちは活性化し、森全体が生き物のようにうねりだす。


 レイと将軍は背中を預け合い、互いに目を合わせる。

 「……やるしかないな」

 「ああ……全力で斬り拓く!」


 二人の決意が、戦場に希望の光を灯した。

 女王の直接介入――それは圧倒的な脅威であると同時に、未来を変える可能性の始まりでもあった。

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