第17話 誇りの刃

女王の命令を受け、新たな軍勢が地の底から湧き上がるように現れた。

甲殻を持つ兵士たちの列は、黒い波のように地平線を覆い、コロニーへと迫っていた。


「……数が多すぎる」

レイは拳を握りしめた。背後には、怯えた表情で身を寄せ合う仲間たち。

彼らを守らなければならない。だが、この数を前にしては、あまりにも分が悪かった。


その時――。

戦場の一角に、堂々と立つリザード将軍の姿があった。

彼は鋭い爪を光らせ、しかしその目には迷いが浮かんでいた。


「将軍……!」

レイが声をあげる。


リザード将軍は唸るように低く答えた。

「女王の命令は絶対……そう教え込まれてきた。しかし、俺は見てしまった。貴様らホモサピと、このコロニーの民が交わした信頼を」


爬虫族の誇りと女王への忠義。

その板挟みの中で、将軍の心は揺れていた。


レイは一歩、彼の前へ進み出る。

「将軍……! 今ここで、あなたが決断しなければ、すべてが滅ぶ。女王のためにも、未来のためにも!」


しばしの沈黙。

そして、将軍は低く笑った。

「フッ……人間ごときに説教される日が来るとはな」


次の瞬間、彼は鋭い爪を振り上げ――しかしレイには向けず、迫り来る甲殻兵の群れへと叩きつけた。

甲殻が砕け、兵が弾け飛ぶ。


「勘違いするな、ホモサピ!」

将軍は吠える。

「これは同盟ではない! 一時の協力だ! 俺は女王に背いたのではない、俺自身の誇りに従うだけだ!」


「それでいい!」

レイも剣を抜き、隣に並ぶ。

「一緒に戦おう、将軍!」


剣と爪が交錯し、二つの力が重なる。

その姿は、まるで相反する種族の象徴が、一瞬だけ同じ方向を向いた奇跡だった。


戦場に轟く咆哮。

レイとリザード将軍――その刃が、黒い波を切り裂いていった。

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