第16話 一瞬の覚悟

轟音とともに森は揺れた。女王の軍勢が押し寄せ、コロニーは炎と叫びに包まれる。

 レイは仲間と共に必死に剣を振るい、迫り来る爬虫族を押し返していた。


 その混乱の只中――あの巨躯が現れた。

 リザード将軍。

 鋭い尾が地面を叩きつけ、火花が散る。人々は怯え、誰もが後退した。


 「……また会ったな、人間」

 低い声がレイの耳に届いた。


 レイは剣を構えながら叫ぶ。

 「将軍! 本当にこれが望みか! お前は女王に縛られているだけだ!」


 将軍の瞳がわずかに揺らいだ。

 しかし次の瞬間、頭の奥に女王の声が響き渡る。


 ──「斬れ。人間を滅ぼせ」


 その声に抗えず、将軍の体は動いた。尾が唸りを上げ、レイに襲いかかる。

 剣で受け止めた衝撃に腕がしびれた。


 「やめろ! お前は本当は……!」


 レイの叫びと同時に、将軍の心に別の記憶が閃いた。

 ──稽古場で笑い合う戦友たち。血を流しながら支え合った日々。

 「守りたかっただけだ……」

 自分自身の声が心に響いた。


 「将軍……!」

 レイが必死に呼びかける。

 「お前は仲間を守りたいと願っていた! 女王に奪われて、それでも心の奥で叫んでいたはずだ!」


 将軍の尾が止まった。

 鱗に覆われた顔が苦悶に歪む。


 「……俺は……俺は……!」

 彼の全身が震えた。

 女王の命令と、かつての自分の心。その狭間で、巨躯は引き裂かれるように揺れていた。


 遠くで女王の声が響く。

 ──「裏切るな。お前は我が刃だ」


 将軍は耳を塞ぐように吼えた。

 「俺は……誰の刃でもない!」


 その叫びは、女王の支配を一瞬だけ振り払った。

 巨躯が女王の軍に背を向け、人間の盾となって立ちはだかった。


 「……人間。俺を信じるな。ただ、この一瞬だけは……俺に戦わせろ」


 その瞳には、確かな覚悟が宿っていた。

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