第11話 広がる声

子どもたちの力は、日ごとに増していった。

 最初は人間同士の間だけだった“心の声”は、やがて別の種族にも届くようになった。


 ある日、レイは狼犬族のカイに呼ばれ、広場に足を運んだ。

 「レイ、ちょっと見ろよ」

 カイの横には、小さな人間の子どもが立っていた。まだ四歳にも満たないはずだが、真っすぐな瞳でカイを見上げている。


 カイは腕を組んで言った。

 「こいつ、さっき俺の頭ん中に直接“遊ぼう”って声を投げてきやがった」

 「……言葉を話したのか?」

 「いや、口は動いてねぇ。でもな、確かに聞こえたんだ。俺の心の奥に」


 レイは半信半疑で子どもの前にしゃがみこんだ。

 「なぁ、お前。カイに何を言った?」

 子どもは少し照れたように笑い、声を出さずにレイを見つめた。


 ──一緒に、走りたい。


 レイは思わず息を呑んだ。

 次の瞬間、カイが吠えるように笑った。

 「ほらな!俺の耳でも鼻でもねぇ、“心”で分かるんだ」

 彼は楽しそうに尻尾を振った。


 しかし周囲で見ていた大人たちは、ざわめきを隠せなかった。

 「……これ、本当に大丈夫なのか?」

 「人間の子が、犬と心を通わせるなんて……」

 「もう俺たちは、人間って呼べるのか?」


 その声には驚きと恐れが混じっていた。

 レイは子どもを見つめながら、小さく呟いた。

 「人間は……何かに変わり始めている」

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