第10話 異常な成長

コロニーの中で、妙な噂が囁かれていた。

 「隣の子、もう走り回ってるらしいぞ。まだ一歳半なのに……」

 「うちの子なんか、昨日までハイハイしてたのに、今日は木に登って降りてこないんだ」


 親たちは驚きと戸惑いを隠せず、焚き火の周りで顔を見合わせてはため息をついた。


 レイはその日、噂のひとつを確かめるため、仲間の住居を訪れた。


 「よう、レイ。ちょっと見てくれ」

 家の主が声をかけると、奥から少年が現れた。三歳のはずの子が、すでに十歳近い体格をしていた。腕も足もしっかりしていて、瞳には妙な鋭さが宿っている。


 「……信じられないな」

 レイが呟いた瞬間、少年の視線が真っ直ぐ彼に向けられた。


 ──レイ、危ない。森の外に、敵が近づいてる。


 声ではない。心の奥に直接届いた。

 レイは思わず周囲を見回し、少年の両親に詰め寄った。


 「今……お前ら、何か言ったか?」

 「い、いや……俺たちは何も……」

 母親は困惑したように首を振る。少年は何事もなかったかのようにレイを見つめていた。


 レイはしゃがみ込み、少年と目を合わせた。

 「……今、俺に何か言ったか?」

 少年は小さく頷いた。

 「……言った。でも、声じゃないんだ」


 レイの背筋に冷たいものが走った。まだ言葉を話せない年頃のはずだ。それなのに、確かに彼の心に“声”は届いた。


 「……テレパシーか……」

 レイは思わず口に出した。

 だがすぐに、少年の父が顔をしかめて遮った。

 「頼む、そんな言葉を軽々しく使うな。みんなもう不安でいっぱいなんだ」


 焚き火の炎がぱちぱちと音を立てる。レイはしばらく黙り込み、少年の瞳を見つめ続けた。

 その目の奥に、ただの子どもではない“何か”が芽生えつつあることを、確かに感じたのだった。

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