第8話  帰る理由

レイの肩に巻かれた布は、すぐに血を濡らしていった。

アリアの手が震えていたが、それでも必死に圧迫を続けている。


「……無理に動くな」

「平気だ、これくらい」

レイは苦笑して見せたが、その顔は青ざめていた。


その時、仲間の一人が空を仰ぎ、静かに呟いた。

「……みんな、待ってるんだ」


その言葉に、全員の脳裏にコロニーの光景が浮かぶ。


狭いながらも暖かい集落。

土壁に囲まれた小さな住居。

子どもたちの笑い声、老人の歌う古い歌、家族の団欒――。


ミラが焚き火の前で一生懸命に木の実を割っていた姿。

薬草を分け合いながら互いの体調を気遣う仲間たち。

「いつか、森の外に広い空を見に行こう」と夢を語り合った夜。


その一つひとつが、血の匂いに満ちる森の闇の中で、彼らの心を支えていた。


「……俺たちが戻らなきゃ、あの生活は続かない」

レイはかすれた声で言った。


カイが低く唸り、力強くうなずいた。

【 群れのために、命を繋ぐ。それが俺たちの役目だ 】


仲間たちはそれぞれに目を合わせ、静かに決意を確かめ合った。

恐怖はまだ胸に残っていた。だが、その奥には確かに“帰る理由”が灯っていた。


「行こう」

レイは剣の柄を握り直し、再び霧の奥を見据えた。

彼らが進む一歩一歩は、コロニーで待つ者たちの未来につながっていた。

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