第4話  森に見守られて

夜明けとともに、コロニーは活気を帯びた。

子どもたちの笑い声や、大人たちの働く音が重なり合い、塀の内側は外界の危険を忘れさせるほど穏やかに見えた。


だが、ホモサピの人々は知っている。

この平穏が「森の仲間」たちに支えられていることを。


森に住む鹿やリス、狼たち――哺乳属の多くはテレパシーを通じて人々と意思を通わせることができる。彼らは時折、森の気配を風にのせて知らせてくる。

「南の沢沿いに大きな蛇が潜んでいる」

「昨日、昆虫属の群れが東に移動していた」

耳に届くのではない。脳裏に直接響くその声は、外の世界で生き抜くための貴重な羅針盤だった。


レイは朝の水汲みを終えると、森からの声に静かに耳を澄ませた。

――今日は森が静かだ。外敵の気配は薄い。

それはまるで、これからの旅立ちを見守るような囁きだった。


一方、コロニーの中では日常が息づいていた。

ミラは焚き火のそばで他の子どもに文字を教え、小さな声で笑っていた。

「これが“守る”って意味。……レイ、これでいい?」

彼女の問いに頷きながら、レイの胸に温かさが広がる。恐怖に怯えていた少女が、今は未来を語る言葉を刻んでいる。その姿は、皆の希望そのものだった。


夕暮れ、食事を分け合う時間になると、アリアが焚き火を見つめて言った。

「外の森は怖いけれど……こうして森の仲間が知らせてくれるなら、きっと帰ってこられるわね」

「もちろんだ」レイは強く頷いた。「俺たちは一人じゃない。森が見守ってくれている」


その言葉に、仲間たちの瞳が一斉に炎を映した。

――人と人、人と森。目に見えぬ絆が、確かにここにある。


翌朝。

霧が漂う森の入り口に立った時、レイは振り返った。

子どもたちの笑顔、働く人々の姿、森から届いた仲間の声。

それらすべてが、彼の背中を押していた。

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