第2話  赤い眼の森

――地を這う低い唸り声。

 暗い森の奥で、爬虫属の目が赤く光った。湿った空気に、粘りつくような殺気が漂う。


「来るぞ、カイ!」

 レイは心で叫ぶ。声に出すよりも速く、テレパシーが相棒へ伝わった。


{分かってる。左から回り込む!}

 狼犬カイの思考が脳裏に響いた瞬間、二人の身体はすでに動いていた。


 茂みを割って現れたのは、鱗に覆われた巨体――リザード兵。鋭い鉤爪が月明かりに鈍く光り、舌が湿った音を立てて空気を探る。


 レイは腰の槍を握りしめ、飛び出した。

 同時にカイが森を駆け、影のようにリザード兵の背後へ回る。


 鉤爪がうなりをあげて振り下ろされる。レイは紙一重で身を捻り、槍の穂先を敵の脇腹へ突き立てた。だが厚い鱗は容易に貫けない。火花が散り、手が痺れる。


「くそっ……!」

 リザード兵の尾が唸り、鞭のように襲いかかる。レイは弾き飛ばされ、土の上を転がった。


 その瞬間――。

 カイの牙が閃き、リザード兵の喉元に深々と食い込む。

{今だ、レイ!}


 レイは咄嗟に立ち上がり、全身の力を槍へ込めた。仲間の牙が作った隙を逃さず、槍の穂先をリザード兵の胸へ突き入れる。

 骨が砕け、温かい血が吹き出した。巨体がのたうち、やがて地響きを立てて倒れ伏す。


 荒い息を吐きながら、レイはカイと視線を交わした。

 互いの鼓動が、心を通じて重なる。

{俺たちならやれる}

{ああ、どんな敵でもな}


 だが、その勝利は一瞬の安堵しか与えなかった。

 森の奥から、さらに複数の赤い光が浮かび上がる。爬虫属の仲間たちが、獲物を奪い返そうと動き始めていた。


 レイは汗ばむ手で槍を握り直し、息を呑んだ。

 ――リバースワールドで生き残るための戦いは、まだ始まったばかりなのだ。

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