私は三番目

竜太郎

第1話

友人との待ち合わせには大抵十五分は早く到着していたい性格なのだが、今回の待ち合わせはそれの極地に値するだろう。

午前中の美容院がキャンセルになり四時間の暇を獲得した私は、ショーウィンドウに腰掛けながらどんよりしていた。

スマホを片手に暇つぶしの娯楽を模索していると、徒歩二分の場所にネットカフェを見つけた。

壁タイルの汚れが目立つ雑居ビルの5階にエレベーターで向かう。

 受付を済ませ、指定された部屋番号が書かれている用紙を受け取った。部屋はフラットシートで、靴を脱いで座れるつくりになっていた。店内は時々話し声が聞こえてくるが、大部分は空調音がフロアに響いている。

私はコーラを一口流すと、四時間という暇な時間を忘れるように、眠りについた。

 …気が付くと、2時間が経過していた。泥のように眠っていたようだ。

 ふと机の上を見ると、2時間前と景色が異なっている。コーラを注いだ紙コップの下に、一枚の紙が置かれていた。紙はコップの汗で円形に薄く滲んでいる。紙が置かれてそれほど時間が経ったわけではないだろう。

私は紙をめくり、読み上げた。

「三番目」

 意味は分からないが、私は一、二番目の安否を漠然と心配した。

私は深くは考えず、漫画棚に足を運ぼうとしたとき、隣の部屋に女性が入っていくのを見た。

乱暴に荷物を置く音、脱力するよ鵜に座り込む音が、左隣から聞こえてくる。

息遣いも妙に焦っている様子だった。

 私は部屋から出るのをためらい、全神経を左隣に傾けた。

数分後、等間隔に布の擦れた音が左隣の扉の前で止まった。時が止まったような無音。時が動いているのは空調の機械音だけだった。

扉の音が漏れないよう、ノブを捻って開ける仕草が目に浮かんでくる。

その瞬間、鈍い音がこの一帯に広まった。

周囲の時間はまだ止まったままだ。

私は反射的に立ち上がり、隣の敷居を確認すると、女性がうつ伏せに倒れている。

不審者は机にある「一番目」と書かれた紙を回収し、私を一瞥すると部屋を出ていった。

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