第2話 ……ピコン。残り一分です~三分で救済、身元は企業秘密~
「頭をお上げください。誰か状況の説明をお願いします!」
その一言で、全員が規則正しく、元の位置へと戻っていった。
『あれ?ここって軍隊……?』
そんなことを思っている間に、国王の話が始まった。
簡単に説明すると。
国王夫妻が隣国の婚礼で外遊していた隙に、ギルベルト王子が禁呪〈聖女召喚〉を独断で発動した――しかも片道きっぷ。
その結果、なぜか“二人”落ちてきた。
若い女は自動的に聖女認定で問題ないが、もう一人(俺)は“ついで”だから処刑でいいや!という雑な扱いだったらしい。
『もちろん、そんなことはさせないがな』と国王。
──はい、命の保証、言質取りました。
さらに悪いことに、マリリンは「謝罪として重鎮全員に土下座」を皮切りに、豪奢な部屋・宝石・衣装・グルメを延々と要求。
王子は「聖女を呼んだ俺スゴイ!」と増長し、城内は混乱、国庫は悲鳴、組織は
そして極めつけは、平穏期に禁呪を乱発した反動で世界の均衡が崩れ、各地に強力な魔物がすでに湧いており――この王国は今、滅亡の危機らしい。
以上のことから、国王夫妻の胃は、限界を突破していた。
気づけば、爽やかな青空が、すでに夕日で真っ赤に染まっている。
「状況はわかりました。で?俺に何をどうしろと?」
「私の活躍を、とくとその目に焼き付けさせるためよ!その前に、さっさと慰謝料を払いなさい!そして死ね!バーカ!」
話の内容が長いのと悪い意味で凄いのとで、今まで気がつかなかった。
その後ろに控えていたであろう、バカ王子とクソ女の存在を。
クソ女もとい、マリリンはどこぞやの悪役令嬢がごとく、玉座から俺を見下し、高笑いをしている。
『2週間ぶりだけど……何がどうしてこうなった!?』
10本の指全てにそれぞれ色違いの宝石のついた指輪をはめ、首にぶら下がる大粒の真珠のネックレスは、まるで破戒僧の数珠のようである。
そして、何よりも気になるのは……。
ピエロのような厚化粧、恥ずかしくないのか!
「はあ~?活躍?」
「そうよ!聖女である私の初仕事。冥土の土産として、あんたに特別にみせてあ・げ・る。」
「だが断る!」
きちんと断ったはずなのに……。
次の日。
気づけば、魔物大襲来の最前線にいるのはなぜ?
見知った第一騎士団の皆さんがそばにいるから、なんとか平常心は保てている……ハズ?
そして……。
現状は、とても劣勢で悲惨だった。
なんせアフォ~マリリン聖女様がポンコツ……使い物にならない!
「え?なんで?どうして?私が聖女なのにー!ウッキー!」
動物園のメスのチンパンジーなごとく、雄たけびを上げながら頭を抱えている。
その間にも、魔物の数は全く減らないというか、どんどん増えている?!
想像以上のスピードで増えていく魔物の数に押され、次々と倒れていく兵士たち。
そして、第一騎士団の皆さんまでもが、次々と地面に伏していく。
よく見れば、俺をかばいながら戦っているシアンまでもが、赤く……血に染まっていく!?
「オイ神様!いるならなんとかしてくれよ!?」
そう願った瞬間……。
『やっと、見つけた~!』
聞き覚えのある、若い男性の声が聞こえた。
突然現れた、真っ白で何もない空間。
そこにいるのは……。
痴漢えん罪でお世話になった、あの超絶美形金髪イケメン!?
なぜか、古代ローマ人みたいな格好をしている。
頭の上には、円状の蛍光灯みたいなのが、光り輝いていた。
『僕が、この世界の責任者。君たちの言うところの創造神。一番偉い神様だよ~ん!』
最初のイメージと違うんだが?
そして、彼の説明という名の言い訳によると。
無理矢理に行われた、異世界召喚を察知し、事態を収拾するため、聖女をお迎えに行く。
しかし、俺の痴漢えん罪事件に巻き込まれ、間違ってマリリンと俺を異世界へとばしてしまう。だからマリリンに“聖女の力”はゼロ。
本来の聖女はあの時俺を助けてくれた、知的眼鏡美人の女弁護士。
突然の巻き込まれ事故処理で、俺を探すのが遅れてしまったらしい。
「で、どうする、この状況!」
『そこで、君の出番です!』
突然、俺の両肩をがっつりとつかんできた、ドヤ顔創造神様。
その笑顔、不安要素でしかないのだが!?
『変身して!』
「は?」
『ほら、こんな感じで!』
創造神はキレッキレな動きで、見覚えのある昔懐かしの藤○弘風“初代仮面ライダー変身シーン”を完コピしてみせた。
『君の頭の中に、これがあったんだ!かっこいいから、これやって!』
気づけば、俺の腰には大きな変身ベルトが巻かれている、だと?
「人の生死を左右するシリアスなこの状況で、それをやれ……と?」
『大丈夫!君が全裸でも、光で包んで目隠しするし!』
得意げに、親指を立てる創造神。
「全裸とは?」
いつの間にか、眩い光が視界を満たす。
「じゃ、じゃあ……変……身?」
“全裸”というワードに、戸惑いながらも、叫んだ瞬間!
「え?この聞き覚えのある音楽は……。」
変身シーンで流れる音楽が、なぜか小さい頃に、2歳年上の姉がはまっていた“美○○戦士セー○ームー○”のお着替えシーンになっているのだが!?
「やっぱり、音楽も合わせないとね!」
「合わせるとは?!」
創造神の言葉に一抹の不安も束の間、いつの間にか光は消え、血なまぐさい戦場の空気が戻る。
と同時に、兵の動きが止まり、次には魔物の動きも止まった。
一斉に向ける視線の先にいるのは、もちろん、俺!?
「せ……聖女……様?」
近くにいるシアンが目を見開き、俺を見るなりそうつぶやくと……。
「聖女様!」
「聖女様だ!」
「これぞ本物の聖女様!」
そんな声が、あちこちから聞こえてくる。
「ハア?何を言って……。」
そこで戸惑う俺。
声が……めっちゃかわいい女の子なんだが!?
『これが今の君だよん!すっごく似合っている!素敵だよ!』
創造神が鼻息荒く胸を張ると、俺の脳裏に映像が流れた。
この世のものとは思えないほどの、一人の美しい女性の姿が。
「え?これって、黒髪だけど小さい頃にはまっていた“○戦士○矢のア○ネ”じゃねーかー!」
純白のロングドレス。
透き通るような白い肌と、艶やかな美しい髪を持つ、神話画から抜け出たような美女。
それにしても……。
あの、大きな変身ベルトの必要性は?
いつの間にか、変身ベルトは姿を消していた。
創造神は、神様の如く(いや、神様なんだけど……)神託を下す。
『さあ、君がこの世界を救って!』
……といわれましても。
「どうしろと!?」
『え?ああ。今から言う呪文?を唱えて、拳を天に振りかざせば、一発で解決するよ!』
説明しながら脳裏に映し出された映像は、とある“ロボットアニメの決め台詞”と、“北○の○”で拳を天に掲げる、○王様の姿だった。
「創造神さんよ、俺の黒歴史、えぐってない!?」
『今はそんなこと、どうでもいいでしょ? 早くしないと、時間がないよ!?』
「はぁ?」
『だって、聖女の時間は、3分間だからね!』
「なぜ、タイムリミットを装備した!?」
……ピコン。残り二分です。
『正体を知られたくないヒーローに、タイムリミットはつきものなんでしょう?』
「説明が、軽くね?」
『そ~かな~』
……ピコン。残り一分三十秒です。
『早くして! 時間がなくなっちゃう!』
何故に逆ギレ!?
……ピコン。残り一分です。
『もう時間ないよ!早く早く~!』
「クッ!笑いたければ、笑うがいいさ!!」
大きく深呼吸をして……。
……ピコン。残り三十秒です。
「俺のこの○が真っ赤に○える!勝利を○めと○き叫ぶ!ば~く烈、○ッド・フィ○ガ――!!」
そう叫び、左手拳を天高く突き上げた。
その時である。
「は?」
空から、目を開けているのが難しいほどの、無数の光が降り注いだ。
と同時に魔物の姿が、次から次へと灰と化して消えていく。
よく見れば、すべての人たちの傷が消えていき、血や泥にほこりまみれの汚れはすべて、きれいに取り除かれていた。
……ピコン。残り二十秒です。
――ラストは明日の21:00。
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