しま、勇気を出す
月曜日の朝は、いつにもまして憂鬱だった。
目が覚めたときから体が重く、そのままもう一度眠りに落ちたい衝動に駆られる。
とはいえ、こんな入学早々サボっていたら不登校まっしぐらだと思って、私はだるい体に鞭を打ち、立ち上がって学校へ行く準備を進めた。
電車に揺られている間も、もやもやとした気持ちは増すばかり。
理由は明白だ。
谷原さんたちと遊んでいる途中で不自然に先に帰ってしまったから、どんな顔をして彼女たちに会えばいいのか分からない。
そんなことを考えながら電車を降りて、大学までの道をゆっくりと歩いていたが、結局大学に着くまでに答えは出なかった。
私は牛歩を保ったまま教室に向かう。
到着したのは8時45分。授業が始まるぎりぎり5分前だった。
教室内はすでに同じ授業を受ける学生たちで賑わっている。
私は教室の入り口で軽く中を見渡すと、その中に谷原さんの友達のグループがいた。
土曜日にいた子たちだ。
私はきまづい思いを抱えながらも、そばを通る。
さすがに無言で通り過ぎるのはマズいと思って、気合いを入れて「おはよう」と言ってみたが、返ってくる返事はぎこちないものだった。
彼女たちは少し驚いた顔を見せ、「あ、おはよー」と言って、プイとすぐに元の会話に戻ってしまう。
ここで「一昨日はごめんねー。実はさあ……」みたいな釈明をできれば、また違っていたのかもしれないが、もちろん私にそんなスキルはない。
そのまま、すごすごと空いている後ろの席に向かうしかできなかった。
本当にため息が出る。
何をやっているんだ私は、ともやもやとした気持ちが一段と大きくなった。
「おはよう」
そんな自戒を繰り広げていると、突然声を掛けられて肩がはねる。
見ると、目の前の席には山崎さんが座っていた。
私は呼吸を整えて「おはよう」と返し、流れに沿って隣に座る。
とは言えそのまま会話はなく、ほどなく先生が入ってきて授業が始まった。
私は授業中、ずっとぐるぐると考え事をしていた。
だが、答えは出ない。
前方で話している先生の声は耳を通り抜けて、頭の中からするすると抜け落ちていく。
そうこうしているうちに授業は終わり、山崎さんが立ち上がる。
そのとき、私は無意識に小さく「あっ」と声を出してしまった。
山崎さんは驚いたように私を見て、首をかしげる。
「どうしたの?」
「あ、えーっと……」
ろれつが上手く回らない。
「つ、次のコマって何か取ってる?」
震える声でなんとかそう尋ねた。
「いや、2コマ空き。困るよねえこういう時間割り」
彼女はそう言って軽くため息を吐いた。
「わ、わたしも」
一瞬の沈黙。
「よかったらさ……」
私は手に力を籠めた。
「次の授業まで暇だから駅前のカフェでも行かない?」
絞り出すようにそう言った。
そうとう早口だっただろうから、果たして山崎さんは聞き取れたのだろうか。
無言の時間が怖い。
私は山崎さんの顔を見ることはできなかった。
「行く」
机とにらめっこをしていた私の頭上から、予想外の言葉が降ってきた。
驚いて顔を上げると、笑顔の山崎さんが私を見下ろしている。
「早く行こ。お昼になるときっと混むよ」
そうして私は促されるまま、山崎さんと教室を後にした。
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