しま、一匹狼の女

月曜日の朝。

駅のホームはいつもより混んでいる気がした。

満員電車に押し込まれながら、「社会人になったらこれが毎日なのか」と、よくわからない未来の想像をして憂鬱になる。

そうして大学に着く頃には、すでにエネルギーの半分を使い果たしていた。


入学から約二週間。

教室に入ると、空気の流れがすでにできあがっているのがわかる。

いくつかのグループがそれぞれ固まって談笑していて、私の座った後方の窓際の席だけがぽつんと空間に取り残されていた。

初日こそ全員が同じ“新入生”だったのに、気づけばもう世界が出来上がっている。

私はそこに入り込めなかった。というより、入り込むタイミングを逃した。


「このまま私は一匹狼の女として生きていくのか」

そんな考えが頭をよぎる。

教科書を開いて、ノートを取るふりをしながら、意識は半分以上どこか遠くにあった。


ふと視線を上げると、少し離れた斜め前の席に見覚えのある女性が見えた。

飲み会のとき、声をかけてくれたあの子だ。

今日は淡いグレーのジャケットに、細い金のピアスが光っている。

髪もきれいに巻かれていて、全体から都会的な空気をまとっているように見えた。

授業を一生懸命聞きながら時折、足を組むその仕草も自然で、まるで雑誌の中の人みたいだった。

明るくて、人の輪の中心にいるタイプ。

同じ教室にいるはずなのに、私とはまるで別の世界の住人みたいに見えた。


授業が終わるとすぐに、私はノートを片付けながら出口に向かった。

そのまま黙って教室を出ようとしたところで、足が止まる。


少し迷う。声をかけようか、やめようか。

でも、話しかけて「誰だっけ?」って思われたりでもしたら悲惨だ。


「……っ」

声を出そうとしたその瞬間、別の女の子が彼女に駆け寄ってきた。

「あ、いたいた! さっきのレポートのやつさぁ!」

彼女はぱっと顔を上げて、その子に笑顔を向けた。

自然で、明るくて、楽しそうな笑顔。

私は出しかけた手を引っ込める。

何をしているんだろう、私。

ふっと息を吐いて下を向き、足早に出口へ向かった。


そのとき。

 「あ、松田さん」

呼ばれて顔を上げると、聡子がこちらを見ていた。

にこにこと、あのときと同じ笑顔で。

「またね」

ひらひらとかわいらしく振られる彼女の手だけを覚えている。

一瞬、言葉が出なかった。

心臓がドクンと鳴って頬が熱くなる。

「お、おう」

私はしゅっと手を挙げ、かろうじてそれだけ言って逃げるように教室を出た。


廊下の先で深呼吸をした。

胸の鼓動がうるさいほど響いている。

たった一言で、こんなに動揺するなんて。

ていうか、「おう」ってなんだよ。

自分の滑稽さに、顔が真っ赤になるのが分かる。


外に出ると空は高くて、春の風がツンと鼻の奥に心地よい空気をもたらす。

私は一人でふふっと笑って帰路についた。

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