勝者が全て、バトルロワイヤル!

@white-nekua

第1話 勝者がすべて

「何なんだよ、お前は……」


 そう言葉を思わずこぼした青年は、睦月蒼空(むつきそら)ごく普通の高校一年生。

ただしかし、彼の目線の先にいたのは異形な存在、ゲームやテレビなどでてくる人間からは遠くかけ離れた……

怪物だった。

 辺りには怪物が破壊したであろう建物の残骸……更に、睦月蒼空の左腕には大きな切り傷がつけられており、左腕からは未だに血が止まらずにいた。


――熱い、痛い


 怪物の被害はそれだけにとどまらず、建物の残骸に押しつぶされもがき苦しんでいる人が嫌でも目に入った。

 誰か、瞼が重くなってきた。死ぬのかな……僕。


「今回のは強敵だな」


 この場にいる誰もが絶望している中、一つの声が響き渡る。

その声の主は、ポケットから宝石のごとく綺麗に光る紫色の石を取り出し、それを左手で強く握りしめる。

男の見た目は綺麗な白髪に水色の瞳。イケメンというよりかは美人が似合うような男だった。


――強敵?今回?


 僕は彼の言ってる言葉全てが理解できなかった。

まるで他にも怪物がいて、前に出現していたような、そんな言葉を彼は発していたのだ。

そんな疑問を解消する間もなく、白髪の男は怪物へと向かう。


「か゛う゛え゛け゛、か゛う゛え゛け゛」


「何だお前、話せたのか?」


 そういいながらも、白髪の男は辺りを壊しながら近づいてくる怪物の攻撃をよけ続けていた。

だが、彼はよけ続けるだけで反撃は一切しなかった。

ただただ余裕の笑みを浮かべてかわす……

やがて一つのビルを一周回ったのか、怪物と白髪の男は同じ場所へと戻って来た。


「終わりだ」


その言葉と共に、ビルは怪物へと綺麗に倒れていった。


「か゛っ」


怪物は光りの粒子になり、白髪の男が握っている石へと吸収された。


「この怪物? 貴方は何を知ってるんですか?」


 そこで、僕は要約声が出た。

その僕の声が震えているのはもちろん、未知なる恐怖心からか声量が出ず、彼に伝わったのかもわからなかった。


「はぁ、安心しろ。直ぐに日常に戻れるさ。全てを忘れてな。」


そういいながら、僕に背を向け彼は歩き出そうとする。


――大丈夫?直ぐに忘れる?


「そんな、日常に戻るなんて。嘘だ……」


「災害起きたって、人々は協力し合い復興してきた。元通りの日常に戻れ……」


「それは一部の人だけの話しだろ」


 僕は思わず彼の言葉を遮っていた。

災害でも今回の件でも同じだ、もう失った人たちは戻らない。今日のことは、僕は絶対に忘れることはない。


「ここで死んだ人は、もう戻らないだろ」


「ああ……だが安心しろ。お前は生きた、もし思い出したら……お前が願いを叶えればいい」


「願いを叶える?」


「ああ、その時は容赦しないけどな」


 そう白髪の男はいいながら、先ほどまで強く握っていたであろう拳の中にあった石を見せ、止めていた足を進めだす。


「ちょ、まっ」


 そんな僕の止める声も聞かず、彼は進んで行った。

僕は腕の痛みからか、意識がもうろうとしており、その場に崩れ落ちてしまった。


* * *


「はっ」


 そう僕は、まるで悪夢にうなされていたかのように起き上がる。

だが、夢の内容は不自然なほど覚えてはいなかった。

辺りを見渡せばいつも通りの自宅……


「やべっ」


 時計の時刻は、目が覚めたときには既に8時になっており、いつも家を出る時間になっていた。


「蒼空ー?まだ寝てるのー?」


 そう母が一階から呼ぶ声が聞こえ、僕は急いでベットから起き上がり、ハンガーにかかった制服へと着替えて一階に降りる。




 あれから、なんとか学校へとたどり着き、いつも通り何事もなく授業を終えた。

見慣れた風景に、僕は謎の安心を覚えながら帰路をたどっていた。

 あれ?ここにこんな空き地なんてあったか?

見慣れた風景のはずだった。なのに、一つの違和感が僕を襲う。

――カタンッ

 宝石のように綺麗な光る石が目の前に落ち、その石を僕は拾い上げる。


「これは? あっ……」


「何なんだよ、お前は」

「今回のは強敵だな」

「安心しろ、直ぐに日常に……」

「戻れるわけないだろ」


「どうして、忘れて……」


 そう言葉こぼしながら昨日怪物の被害が起きた場所へと向かい、辺りを見渡す。

しかし、怪物なんていなかったかのように帰路をたどる生徒。

更に気になったのは、昨日怪物の被害にあった際に受けた左腕の傷もきれいさっぱり消えていた。


「願いを言え」


「え?」


 そう声が聞こえ、僕は辺りを見渡す。

しかし、話しかけた人物は見えず、再び声が聞こえる。


「願いを言え……」


「願い、そんなこと急に言われても……あ!」


しばし自分の願いに悩んだのちに、僕は一つの願いを思いつく。


「誰かを救う力……とかって」


「ならば、全てのクリスタルを集めろ……」


 その声が聞こえた後、再び声が聞こえることはなく、再び辺りを見渡す。

理由はたった一つ……

変な独り言を言った奴だと思われてないか不安だったからだ。

 しかし、周りの人は聞こえていなかったのか、ただ関わりたくないだけか、不自然な視線を向ける人はいなかった……たった一人の男を除いて。

その男には深く見覚えがあった。

白髪で、水色の瞳の男……


「まさか、本当に選ばれるとはな」


そういいながら、彼は僕の持っている光る石に視線を向ける。


「ああ、そう言えば、名乗ってなかったな」


「あっ、僕は睦月蒼空です。」


「ふっ、まぁいいか」


「……ん?」


「俺は神白魁星(かみしろかいせい)だ」


そう僕は魁星の言葉に引っかかりつつも、疑問を投げる。


「それで、結局これはなに?」


 その言葉に笑みを浮かべ、僕の方へと一歩魁星は近づいてきた。

だが、僕の問いを答えたのは魁星ではなかった。


「これはね、争奪戦だよ。クリスタル争奪戦。」


「争奪……戦?」


――キーンッ

 そう女性の声と共に嫌な金属音が聞こえ、僕へとドリルのように尖った金属が回転しながら飛ばされる。

大きさはおよそ拳一個分ってところだろうか。

僕はそれに反応できるわけもなく、その金属に当たっていたであろう。

本来なら……

彼女が技を放つ前に魁星が僕を突き飛ばしており、金属は後ろの空き地の地面へと刺さっていた。


「予知能力? だとしたら相性最悪なんだけど……」


「ふはっ、挑む相手を間違えたな」


 そういいながら、魁星は彼女へと視線を向ける。

周りにいた人たちは、彼女を通り魔かのように避けて、走って逃げていった。

彼女の帽子を深く被っており、素顔がほとんど見えないと言っても過言ではないだろう。

 そして、僕の頭の中では「予知」や「能力」など普通じゃ聞きなれない言葉で頭がいっぱいだった。

今目の前で起きている現象がそれだとしたら、魁星の異常な力に、金属を飛ばす少女のことも納得はできる。


「待ってください。今警察を……」


「無駄だ。このクリスタルを持たない限り……な」


「えっ……どうして……」


――キーンッ

 その金属音が再びなり、彼女の手元から放たれる。

先ほどと同じように金属は一直線で魁星へと飛ばされた。

 彼女も扱いに慣れていないのか、少し狙いがずれており、僕らに当たることはなかった。


「あまりストックはないんだけどな~」


 そういいながら、彼女は左手を握りしめ、右手でポケットからねじを十個程度取り出し、それを変形させ飛ばしてくる。

――キーンッ

 当たれば致命傷は避けられないだろうが、サイズも最初のもの以外はそれほどでもなく、精度も相まって近づかない限り当たることはないだろう。


「触れた金属を変換して操るってところか?」


「それは、どうかな」


「飛ばせるのは一回だが、変換できるのは二回……だろ?」


「知ってるの!? でも……」


――キーンッ

 その言葉共に、今まで飛ばされていた金属が魁星の方へと向かった。

おそらく、これを狙ってあえて攻撃を外していたのだろう。

全方向からの攻撃、無理ゲーだ。


「魁星……」


 誰もが諦める盤面だろうが、魁星は微笑を浮かべていた。

まるで、その攻撃が元から来ることを知っていたかのように。


「うそ……」


 その行動に彼女も言葉を思わずこぼしていた。

そうだ、魁星に攻撃はかすったものの、これといった外傷は見られなかった。

全てギリギリでかわしたのだ、予知などでは説明できないほど綺麗に……


「終わりだ。」


彼女が動揺している間にも魁星は接近しており、魁星は拳を放とうとする。


「待ってください。どうして、争うですか。」


そう僕が言うと、魁星は拳を止めて彼女の胸ぐらを掴んだ。


「叶えるためだ。俺の願いを……」


「願いを……叶える?」


「ああ、そのためにはクリスタルが百個必要なんでな」


――キーンッ

 その金属音が鳴ると、魁星は距離を取るため胸ぐらを離し、彼女を蹴り飛ばした。


「うっ」


 その不意な蹴りに対応できず、後ろから思いっきり倒れる。

彼女はポケットの中で変形させて作ったのであろう金属ナイフがポケットから落ちる。

だが、倒れながらも両手でクリスタルを握りしめ、絶対に離さなかった。


「待って、お願い……これだけは、これだけは……」


そう懇願する彼女を目の前にしても、魁星は表情一つ変えず、彼女を見下ろす。


「そうやって懇願する人から、お前は奪い取ったんだろ?」


「はっ……」


 その魁星の言葉に、彼女は手を緩めた。

その隙を改正は見逃さず、彼女からクリスタルを奪おうとする。


「待って!」

 

 そう僕は気づけば彼女と魁星の間に入っていた。

怪物が暴れていた時、僕は何もできなかった。

それだけじゃない、目の前で人が死んでいくのを……街が壊れるのを見てるだけだった。

だから――


* * *


 何もない空間に一つの声が響く。


「睦月蒼空の介入は偶然か……はたまた……世界の歯車は狂い始めた。見せてみろ……」

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