第36話 文化祭

 気づけば、夏休みが終わっていた。

 そして、今日は文化祭。A45は、雑務を押し付けられる。


 大正カフェと銘打った看板に、和装で彩られたクラスの女子が、客を案内する。

 俺たちのクラスの催し物だ。

 ちなみに俺は、飲食物に触れる事すら許されてない。

 理由は危ないかららしい。心配しないでもなんもしねぇーよ。


 このクラスで男子一人だけ、時代にかけ離れた燕尾服に袖を通している奴がいる。

 そう、みんな大好き浪川君だ。

 いけ好かない君は、お察しの通り、顔がいいからって理由で採用された。

 ホント、顔がいいからって、全員に好かれていると思うなよ?君だ。


 

 あれからというものの、まず、成績は上り調子、上位10位は射程圏内。

 成績逆転ちゃんは、もう、名前すら乗っていなかった。来年は別クラスだろう。楽しみだ。

 

 そして1位は、変わらず、鳳凰院。

 彼女とは、あの夏から何も変わらなかった。メールでのやり取りは変わらず、学校では、浪川ホント、顔がいいからって、全員に好かれていると思うなよ?君と楽しそうに談笑を続けている。

 あれは単なる気まぐれか、それとも、幻だったのではないかとさえ思う。

 この距離感が一番いいのは俺だって分かっている。だが…。

 いやでも、期待はもう捨よう。だって、鳳凰院は、いけ好かない君浪川が好きなのだから。



 1ーAには長蛇の列ができている。

 この学校の先輩どころか、他校の生徒まで、双璧の美なんちゃらこんちゃらを見に来ている。

 鳳凰院は分かるけど、もう一人は、清楚に見せかけた特大地雷女だぞ。やめとけやめとけ。


 そんな所為か、接客より雑用の方が忙しい。

 空いた皿洗いを急ピッチで仕上げ。食料の買い出しで街のスーパーまで走る。

 言っとくけどお前らが触るなって言ったやつ、俺たちが買ってきてるんだからな?

 因みに、俺たちに休憩は用意されていない。労基もビックリの、そこまで法律が

時代にまで逆行している。ファキュメーン。


 終わる頃には、シャツから上のブレザーまで汗が染みわたっている。

 衣替えで下したばっかなのに、もう洗濯か。


  ◇

 

 俺たちは、クタクタになりながらも、体育館に向かう。

 長等ミスコンに、狛前が出るらしく、その応援のためだ。


 着くと、用意されていた椅子は全部埋まっていて、何人か立ち見している。

 俺たちは、そんな余裕がないので、行儀悪いが、床に座って観る事となった。


 アピールは、チャレンジャーもとい、1年生から始まる。が

 正直、あの二人に勝てる人なんて、そうそういないだろう。序盤で決戦投票は決まっている。


 狛前の番になった。

 狛前の家は、アパレル会社を営んでいるらしい。ウチのクラスの和装も、彼女の

提供だ。

 ランウェイに見立てて、衣装が代わる代わる、違った狛前が光の中を歩き、暗闇に消えていく。

 アピールタイムは5分ほどで終わった。

 終わった時、出水が「俺、もう見てるんだよねw」とニアニアしながら言っていた。ああ、そういうのはいいんで。


 次、あいつの番だった。

 あいつは、クラスで着ていた和装で、スタンドマイクの前に立ち、「聞いてくださいアメージンググレイス」と言って、アメグレを歌い始めた。

 皆が聞き入っている。それ程までに、奥ゆかしく上手い。

 歌い終えた、あいつは一礼をして、舞台袖に掃けて行った。会場を揺らすほどの

歓声が上がる。


 最後に、鳳凰院の番になった。

 鳳凰院の舞台は、さっきまでとは違う。狛前の時はレッドカーペット、あいつの

時はスタンドマイクだけだったが、舞台に光量が増え、全体が照らされている中に、

烏帽子えぼし、和太鼓、尺八、ひとえ等を、こしらえた集団が、整然と並んでいる。

 その中、ひと際輝く、重ね重ねた赤い和装を身に包み、衣装に合わせてあつらえた花化粧で、飾られた美の女が立っていた。まるでひな壇だ。

 日本舞踊というやつだろうか。彼女は、楽器の音色に合わせて舞を舞う。

 日本人の遺伝子に染み渡るような高揚感と、完璧に洗練された踊りが、観るもの全て統べてを魅了する。

 全てが終わった時、今日一番の拍手が生まれた。


 後は、順繰りに終わり、投票の開示が始まる。

 

 結果は予想通りだった。下から数え、最終的に二人あいつと鳳凰院が残った。


「第40代、ミスお砂糖に選ばれた人は?——」


 ドルルルルと、数秒間ドラムロールが鳴り、止まる。そして、司会が叫ぶ。


「鳳凰院統子さんです!!!!」


 司会によばれ、椅子から立ち、壇上の前に来る。

 司会に色々質問され、最後に「この優勝を伝えたい人はいますか?」と問われた。すると、


「最初は幼馴染の——」


 —— ああなんだ。お前もあいつを選ぶんじゃん。


 

 ここ数ヶ月、あいつの事を思い出さなくなっていた。


 あの夏から、鳳凰院を意識するようになっていた。


 自分が今、誰が好きで、誰を諦めているか分からなくなっていた。


 結局、あの夏のひと時は、思わせぶりな態度だった。

 

 出水桑島の制止も聞かずに、居たたまれず、会場を出る。

 向かう足は高い所、気づけば屋上に来ていた。


 何時間ここに居たのだろう。外はすっかり日が落ち、赤と黒が入り混じる境界線がキャンパスに描かれていた。

 グラウンドではキャンプファイヤーの火が上がっている。


 帰ろうとしたその時、きーっと鉄扉が軋む音がする。


「此処に居たのね」


 彼女は俺を探してらしく、後夜祭の踊りを、あの炎の前ではなく、屋上ここ

踊らないか?と言う。


 どうして、そんな事を言っているの?


 あいつの所にいけよ。

 

 ホント、女ってのは、訳わかんねぇ。

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