天使の羽根

桜井真彩

第1話

天国ではたくさんの神様とたくさんの天使たちが暮らしています。

神様はみんなが幸せになれるように仕事をして、天使たちは人々に幸せを運ぶ仕事をしています。


天使の中にとってもドジでのろまな女の子がいました。

ある日、神様がそのドジでのろまな女の子の天使にお使いを頼みました。

女の子の天使は元気よくお使いに出かけていきました。



雲の上をぴょんぴょんとジャンプしながら、月の女神様のお屋敷に手紙を届けに行きます。

久しぶりのお使いで、女の子の天使は嬉しくて嬉しくてしかたありませんでした。

無事に月の女神様に手紙を届けて帰ろうとした時です。

女の子の天使は足を滑らせて、雲の隙間から落ちてしまいました。



女の子の天使は気がつくと冷たい大地の上に横たわっていました。

辺りを見回してみると、ここは天国でも雲の上でもありません。

起きあがって辺りを見回してみると、すでに辺りは真っ暗で夜になっていました。

いつも遊んでいたお月様のブランコはとてもとても遠くに浮かんでいました。

女の子の天使はお空に帰ろうと羽根を広げたら…大事な羽根が折れているのです。


「羽根が折れちゃってお空を飛べないからお家に帰れない」


そう言って女の子の天使はめそめそと泣き出しました。



しばらく泣いていると、優しそうなおじさんがやってきました。


「お嬢さん、どうして泣いているの?」


おじさんは優しく天使の女の子に話しかけてきました。


「あのね、羽根が折れちゃってお空を飛べないから、お家に帰れないの」


そう言って女の子の天使はまた泣き出しました。


「おやおや。それは困ったねぇ。じゃあおじさんがその羽根を治してあげるから、おじさんの家においで」

「ほんと?おじさんが羽根を治してくれるの?またお空飛べるようにしてくれるの?」


天使の女の子は泣くのをやめて、おじさんの方をまっすぐ見つめました。


「大丈夫、おじさんがまたお空飛べるようにしてあげるからね」

「ほんとに?ありがとう」


そう言って天使の女の子はおじさんについて行きました。



深い深い森の中をおじさんと一緒に歩いていると


「お嬢さん、折れた羽根をおじさんが持ってあげよう」


おじさんが急に立ち止まって天使の女の子に言って、折れた羽根をとろうとします。


「うんん、平気だよ。ちっとも重くないわ」


天使の女の子はにっこり笑っておじさんに言いました。


「いいからおじさんが持ってあげよう」


そう、おじさんが言いました。

風が木の葉を揺らし、囁くような声で歌い始めました。


「その人に騙されちゃいけないよ、それ人は人間じゃなくて悪魔だよ!さぁお嬢さん、お逃げなさい、お逃げなさい」


おじさんは優しそうな笑顔を浮かべて言いました。


「風の囁きなんか気にしちゃいけないよ、おじさんは悪魔なんかじゃなくて、ただその羽根を持ってみたいんだ」

「でも、この羽根は大事なものだから」


女の子の天使が言うと。


「羽根を渡さないなら治してやらないぞ、おまえは空を二度と飛べないんだぞ」


おじさんはすごく怖い顔をして言いました。

天使の女の子は泣きそうな顔になって羽根をおじさんに渡そうとしましたら、風は今度は大きな声で歌い始めました。


「それに騙されちゃいけないよ、天使の羽根が欲しいだけ。さぁお嬢さん、お逃げなさい、お逃げなさい」

「いいから羽根をよこせ!その羽根は高く売れるんだ!!」


おじさんは天使の女の子から無理矢理、羽根をとろうとします。


「おじさん…羽根を治してくれるって嘘だったのね?」


そう天使の女の子が言うと、おじさんは意地悪く笑って


「当たり前だろ、天使の羽根は高く売れるし、天使の血は長寿の元だからな、おまえを捕まえて食べてしまうのさ」


不気味な笑みを浮かべながら言いました。


天使の女の子はすっかり怖くなって折れた羽根を両手でしっかり支えて、森の奥へと走って逃げました。

おじさんは天使の女の子を追いかけてきます。

風が天使の女の子を抱え上げて、遠くに飛ばしました。


「さぁお嬢さん、お逃げなさい。あなたは羽根がなくても飛べるから」


そう風が最後に囁きました。


「でもでも・・・羽根がないと飛べないわ」


天使の女の子は泣きながら叫びましたが、風はもうどこにもいませんでした。



天使の女の子がしくしくと泣いていると、若い羊飼いが話しかけてきました。


「お嬢さん、どうして泣いているの?」


天使の女の子は今までのいきさつを若い羊飼いに話しました。

若い男は天使の女の子に言いました。


「僕は人間だから、空は飛べない、羊たちも地上に生きていることを神様に命じられたから空は飛べないけど、君は天使なんだろ?羽根がなくても天使なら空を飛べるはずだよ」


天使の女の子は聞きました。


「どうやったら羽根がなくても飛べるの?」

「願えばいいのさ、空を飛びたいって。そうすれば君は空を飛べるから、お家に帰れるよ」


そう言って若い羊飼いは静かに微笑みました。



女の子の天使は一生懸命願いました。


『空を飛びたい』と。


すると不思議なことに、からだがふわりと空に浮かびました。


「わ…飛べるよ、羽根がなくてもちゃんと飛べるよ、お兄さんありがとう、さようなら、ほんとにありがとう」


そう言って女の子の天使は空に帰っていきました。



女の子の天使が空に帰る時、白い羽根が空から静かに舞い降りてきて、荒れ果てた土地に白い花を咲かせました。

若い羊飼いも羊たちもその後は幸せに暮らしました。


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天使の羽根 桜井真彩 @minimaa

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