第6話
覚悟か。確かにどこの馬の骨かもわからん転生者に国の行く末を託すんだ。生半可な気持ちでいてもらっては困るだろう。
「そなたは、成り行きで勇者になったのだ。気が変わったなら今からでも、辞退はできる。その上で、本当にそなたに、魔王を倒す覚悟はあるか?」
俺は少しの間考えた。答えは決まっている。しかし、どういえば、納得してもらえるだろうか。これといった案もなかったので、思ったことを素直に言ってみることにした。
「俺も昔は正義の味方みたいなことやっていたからな。やっぱり魔王の存在を見て見ぬ振りはできない。」
「そうか、だが魔王軍は生半可な相手ではないぞ。」
「知っているよ。魔王軍は強い。どれだけ、ゲームオーバーに追い込まれたことか。」
「ゲームオーバー?」
「まあ、こっちの話だ。それより、俺は魔王なんかよりもっと強い奴らと戦ってきたつもりだ。今更、魔王なんかにビビッてなんかいられねえよ。」
数々のテロリストと戦ってきた俺に、魔王は怖くない。だが、テロリストのテの字も知らないガルドさんにそれを理解してもらうのは難しいだろう。
「そこまでして、戦う理由は何だ。」
やはり簡単には納得してもらえないか。
「確かに魔王討伐の暁には報酬も名声も思うがままだ。だが、自身の命を危険に晒してまで、それを求めるような者にはそなたは見えない。」
さて、どうしたものか。動機を聞かれると正直弱い。馬鹿正直にゲームの中の世界に入れるなんてロマンを語っても、理解されないだろう。
ロマン以外の理由か……それならきっと、千穂の考えを借りるのが一番だろう。
俺は一呼吸おいて、口を開いた。
「そうだな、あえて言うなら力に訴える奴を許さない。どんなに高潔な思想でも、暴力で弱き者を虐げる理由にはならない。今は亡き大切な人の考えだ。信念って程じゃないが、俺はその考えを大切にしている。」
これで納得してもらえただろうか。恐る恐るガルドさんを見ると満足そうに笑みを浮かべていた。
「そうか。吾輩はそなたを見くびっていたようだ、よろしく頼む。」
そういって、ガルドさんは手を差し出してきた。ここ1年ほとんど人と関わっていなかったから、ちょっと戸惑ってしまった。俺がゆっくりと手を出したその時だった。
「皆さん、敵です。気を付けて!」
進太郎君の呼びかけで、緊張が走る。俺たちは、それぞれの武器を構え、敵に向き直った。
「出たな、アンデット兵!」
アストロピア王国戦記の最初の敵、アンデット兵。剣と丸縦を携えた黒ずんだ骸骨たちが、隊列を成して向かってくる。
「食らえ!伝説の武器、オーシャンアロー!」
矢を手に取り、弓を弾く。だが、矢が勢いよく飛んでいくことはなく、ポトンと静かに落ちた。
「直太様、何をやっているのですか」
「うるせえ、弓矢なんて使ったこともないんだよ。」
「だから、素直に銃を使えばいいでしょう。」
メイはそういうや否や、俺のバッグをひったくり、ビームガンを取り出した。手慣れた様子でビームガンをくるっと一回転させる。
「腕が鳴りますね。」
「え?おい、ちょっと。」
俺の静止を無視し、メイは引き金を引いた。その射撃制度は見事だ。反動で重心をずらすことなく、アンデットの関節を的確に撃ち抜く。アンデッドたちは、経験したことのない攻撃に、成すすべなく崩れていく。こいつメイド用アンドロイドの癖に妙に強いな。まあ、そんなことはどうでもいい。俺が今最も気にしていることは……
「何でゲームの世界まで来て、銃が活躍するんだよ!」
「何を言っているんですか、直太様。ここがどこであろうと、我々が使い慣れた銃を使うのが合理的選択というものです。」
「RPGで剣と魔法はロマンだろ? 銃なんか出てきたら、台無しだろうが!」
「ふっ……くだらない。」
「お前今鼻で笑いやがったな!俺たちのロマンを笑いやがったな。」
「自立した大人がロマンだとは、恥ずかしくないのですか?」
気が付けば、俺たちの方に向かってきたアンデットは、全て倒されていた。これといったアクションもなく、ただ突っ立って、銃を撃つだけ。そこにゲームの時の興奮はない。なんか虚しくなってきた。
「そうですね、強いて言うなら、進君になら、ロマンという言葉も似あうかもしれません。」
「え?おお!」
次々と斬りかかるアンデットたち。だが、進太郎君にこれらの攻撃は届かない。舞子のごとく、軽快にかわしていく。難なくアンデットたちの背後取ってしまった。
彼は眼鏡を取り胸ポケットにしまうと、アンデット兵たちに剣の切っ先を向けた。
「お前たちの動きは理解した。さあ、こい!剣の勇者がまとめて相手してくれる。」
「きゃあー♡進君かっこいい!イケメ~ン!」
黄色い声を上げ、一方的なエールを送るメイ。いや、確かにかっこいいのだが、これ俺の出番なくね。
横振りの斬撃が進太郎を襲う。だが、彼は身をかがめ回避。そのまま、アンデットの懐に入り込む。
「そこ!」
進太朗の突きの1撃が、アンデットの頭部を貫いた。崩れ落ちるアンデット。だが、その後ろから次のアンデットが、進太郎を狙う。振り上げられたサーベル、防ぐには速すぎる。
「させぬぞ!」
咄嗟に防いだのはガルドの斧。
「助かります、ガルドさん。」
「ふっ、気にすることはない。」
力勝負なら、ガルドが負ける理由はない。押し負けたアンデットは、姿勢を崩してしまい、ふらついている。
「今だ、進太郎殿。」
「はい!」
この隙を見逃すわけにはいかない。進太郎は、一気に距離を詰め、アンデットの首を切り払った。
「よし、次は?」
「進太郎殿、後ろである!」
見れば、残った3体のアンデットが、一斉に斬りかかろうとしていた。
「負けるかああ!」
進太郎は、咄嗟に横振りの1撃を繰り出す。だが、盾を突きだされ、全く通らない。ガルドも斧を振るが、3枚の盾による守りは、簡単には崩れない。
だが次の瞬間、アンデットたちは、姿勢を崩した。ビームガンの特徴的な銃声とともに。
「アンデットの皆さん、私を忘れてもらっては困りますよ。」
見れば、メイの持つビームガンがアンデットに向いている。絶え間なく放たれるビーム。アンデットは、咄嗟に対応できず盾とサーベルを落としてしまう。
「今です、進君!」
「ありがとう、メイさん。」
進太郎は、目を閉じてうる覚えの魔術を発動する。
「筋力強化、聖剣研磨、風速調整。」
彼がそう唱えると、体が赤く、聖剣が金色に光り輝く。さらに、追い風が吹き始めた。「さあ、行くぞ!」
目を開いた進太郎。大きく助走をつけ、天高く飛び上がる。空中で大きく1回転し、横振りの一撃がアンデットたちに下される。3つの骸骨の頭は一瞬にして吹き飛び、その体は塵と化して消えた。
進太郎は綺麗に着地すると、立ち上がっていった。
「初戦だし、こんなものかな。」
見事においしいところを持っていてくれたな進太郎君。メイとガルドさんが駆け寄り、ほめちぎり始めた。
「おお、素晴らしかったぞ!」
「進君、最高!」
確かに迫力は凄かった、演出とか、飛び上がった後に1回転する無駄な派手さとか含めて
で、俺の出番は?なんて今更聞けないよなあ。
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