第4話
勇者召喚当日。
「いやああ、やっと魔王倒したぜ。無茶苦茶面白かった。」
昨日の夕方からぶっ通しでやってみた結果、日付が代わり、気づけばもうすぐ正午になろうかというところ。
「ボーナスステージは、後でやろう。流石に疲れたし。」
「まさか、あれから20時間ぶっ続けでゲームをやっていたなんてことはありませんよね。」
メイの問いかけに俺は、ゆっくりと目をそらす。その反応にメイは、大きく嘆息した。
「直太様……相変わらずですね。」
「ふっ、俺は一度走り出すと止まれない性格なのさ。」
「健康のための十分な睡眠時間を削り、一時の暇つぶしに全力を注ぐ。いくら下等生物とはいえ、そこまで愚かだったとは。」
「仕方ないだろ、これ普通のRPGじゃないんだよ。魔王軍にもちゃんと正義があって、主人公はそれを知った上で魔王を倒すんだぜ。王国の腐敗具合とか、魔族差別とか、マジでシナリオ面がしっかり練られていて……」
「こんな醜態、千穂乃様に見せられますか?」
メイの一言に、俺の表情固まった。メイを凝視し、その声色は暗く低いものに変わる。
「千穂は……関係ないだろ。」
「いつか、千穂乃様が帰ってきたとき、あなたが生活習慣病で亡くなっていたら、笑うに笑えません。」
「そんなときは来ない。」
「いいえ、わかりませんよ。千穂乃様の遺体は見つかっていないんです。ある日突然……」
「もうあいつは帰ってこないんだよ!」
俺は、立ち上がり怒鳴りつける。メイの言う通り、あの崩壊したビルから千穂の遺体は出てこなかった。だが、それが何だというのだ。彼女が亡くなったという事実は誰の目にも明らかだ。ありもしない希望を抱いたって空しいだけ。
「もとより俺は一人でも生きていける。」
「ですが……」
「俺はもともと、一人でいることが好きなんだよ!あんなオカルト女いなくなって清々したね。これでもう自由の身だってな!」
そうだ、確かに俺は一人の時間を大切にしていたい人間だ。それは嘘じゃない。だけど、それだけだったら、今俺の頬を伝う涙の理由にはならない。わかっている、半分は強がりだ。
俺の気持ちを察してか、メイはそれ以上説教を垂れることはなかった。
「申し訳ありません。」
そう言って、部屋から出ていこうとする。
部屋の空気は最悪だった。
「ちょっと待って!」
「はい、どういたしましたか?」
突如床が赤く怪しく輝きだす。
「何だよこれ?」
どっかの古代文明みたいな、模様の円を組み合わせた模様。いわゆる魔法陣という奴にみえる。
「解析できません、熱を帯びているようですが……これは一体?」
「メイでもわからないのか!嘘だろ?」
メイは、インターネットと接続して、瞬時に検索が可能だ。そんな彼女でも、わからないとなれば、それは果たしてこの世のものなのか。俺は咄嗟に、棚のフックにかけてあった鞄を手に取る。
「直太様、お逃げください。」
「逃げるたってどこに!」
魔法陣は回転し始め、光は徐々に強くなっていく。
「うあああ!」
視界すら奪うほどのまばゆい光に俺たちは包まれた。そして俺たちの意識はそこで途切れてしまった。
「えっとここは?」
目が覚めて、視界に最初に映ったのは赤いカーペット。顔をあげて、俺は自らの目を疑った。鎧をまとった騎士が2人。そしてその二人に挟まれた玉座に、髭を蓄えた王様がいる。絵やドラマでよく見る光景だが、目の前にするとかなりの迫力だ。
しかし鳥からすが描かれた王冠。どっかで見覚えが……記憶を探っていると隣にいたメイが口を開いた。
「アストロピア王国戦記の登場人物、国王アルセリオンでしょうか。」
「ああ、それだ!」
「一体これは、どういう状況でしょうか。確か、私たちは先ほどまで直太様の部屋にいたはずです。」
「コスプレイベントか?アストロピア王国戦記は名作だし。」
「いえ、妙です。コスプレイベントにしては作りこまれすぎています。」
メイの言う通りだ。アーチ状の窓が並ぶ、巨大な広間。吊り下げられた豪勢なシャンデリア。天井には絵画が大きく描かれている。文化財、いや世界遺産にすら肩を並べそうなこの施設をイベントのために貸し切れるだろうか。そんなことを考えていると、国王アルセリオンがゆっくりと腰を上げ、俺たちに視線をやる。
「混乱しているようだな、無理もないだろう。」
「アルセリオンさん、いや国王陛下。教えてくれないか。ここは一体?」
「ここは、君たちが住んでいる世界とは異なる世界。ある使命を果たしてもらうため、君たちには来てもらったのだ。」
「え?え!?その使命ってまさか……」
「ああ、そうだとも。魔王討伐だ。」
その言葉を聞いて、俺は何となくこの状況を察することができた。いつもはクールなメイもこの時ばかりは、動揺を隠せていない。
「私たちは今、ありえない状況に巻き込まれています。」
「ああ、これがいわゆる異世界召喚。俺たちはゲームの世界に勇者として召喚されたってのか!」
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