イケメン令嬢の恋物語

えすぽわーる・ふぇりす

お約束には反するが

「お前は学院ではイケメン令嬢なんてもてはやされているが、我が愛するアリスをおトイレに閉じ込めたり鞄を隠したりした罪は消せないぞ!よって、エリン・ヴェル・シアンローズとの婚約を破棄する!」


 嗚呼、流行の小説や歌劇にあるような悪役令嬢みたいな扱いですね。まあ、令嬢なんて柄ではが。“学院内では地位に関係なく礼を尽くすこと”を逆手にとり、私の愛するオルレイド王子を虐めた罰は受けてもらおうか。ジョン王子。


「兄上、あの……」


「愚弟、何だ。妾腹のお前を呼んでやっただけでも感謝しろ」


 私はジョン王子の卑しい笑みを見て、深いため息をつき、馬鹿二人をにらみつけた。馬鹿かこいつは、だからこれから乱闘騒ぎになるのだ。


「ゴホン。恐れながら、ジョン王子。貴殿とその取り巻きが“学院内では地位に関係なく礼を尽くすこと”を“平等なのだから何をしてもいい”と阿呆な解釈のもと、オルレイド王子を虐めていた証拠なら用意してありますが、もうとっくに国王陛下公認で婚約者ではなくなっているので、私とゼトが記録した証拠を手心加えず再生しますね」


 私はジョン王子から離れ、こちらへ来たオルレイド王子の護衛ゼトからペンを預かり、会場を真っ暗にして壁に向けた。ペンから映像が流れ、ジョン王子とその取り巻きやアリスがオルレイド王子の悪口を本人や関係のない方々にまで聞こえるように言ったり、取り巻きに教材を隠させたり、アリスさんが壊した備品をまるでオルレイド王子が壊したように偽装したり……。それこそ、おトイレに閉じ込めようとしたり。皆様がざわつきだしましたが、私がさらに追い討ちをかけました。


「幾ら学院内が実質平等とは言え、暴力を振るおうとしたのか……?」


「ここまでするとはどういうことですの?無礼を承知で言わせてもらうが、学院の決まりの解釈が自分勝手で馬鹿すぎて頭を抱えたくまりますわ」


 さて……。下ごしらえはバッチリ。私は隠し持っていた魔力を凝縮した弾丸を放てる拳銃を両手に持ち、ジョン王子とクソアマアリスさんの頬をかすめるように撃った。


「私の可愛いオルレイド王子カナリアを虐めてくれたな?相応の覚悟は出来ているのだろうな?」


「エリン、あまり人を傷つけないでください。それと、兄上に与してない人と改心する気になった人は僕の後ろへ。嵐が来ますよ」


 この期に及んで、あの馬鹿王子派の者にまで慈悲をかけるとは、私のカナリアは心まで美しい。さて、一暴れするか。


「え、衛兵ども!ぼーっとしてないで俺とアリスを守れ!」


「は、はい……ぐはっ!」


 私は拳銃を捨て、背後に単発式マスケットライフルを大量に出し、一斉に襲いかかってきた衛兵どもを銃身を撃っては捨てを繰り返し舞うように倒していった。数が多くてマスケットライフルの射程より内側に入られてしまったので、取り回しの利く二丁拳銃に戻し死なない程度に動けなくなるまで撃ちままくった。


「楽しいダンスはここまで……おや、心が醜くてぶち抜き甲斐のある標的メインディッシュが二人も……。恐怖と共にこの名を刻むがいい。殺戮の貴公子、エリン・ヴェル・シアンローズの名を」


 二人が逃げられないように、四肢の関節を銃で砕いて気絶させオルレイド王子の方に向き直り、一礼した。


「エリン!誰も殺していないですか?社交界デビューしたとき数人殺したらしいけど……」


「まだ一人も殺してないが?殺しかけしたけれど。あのときの私と今の私では、格が違う。いっそ死んだ方がマシなほど痛いけど絶対に死なないところは闇の精霊より授かった邪眼で見通せるぞ?」


 この世界は様々な神や精霊の加護に護られている。皆等しく祝福を受けていても、それは感じることも目に見えることも殆どない。しかし、たまに加護を使える者がいる。私は精霊王オリジンの加護を受け、さまざまな精霊を使役できたりその力を借りたりすることが出来る。それ故に事実上詠唱なしで上級魔法をぶっ放しまくっている状態になる魔弾を使えているのだ。


「さて、一悶着あったところでお開きにしましょう。皆様、わざわざご足労ありがとうございました」


 この茶番は、ジョン王子一派の悪行を白日の下にさらすための茶番劇となった。ゼトに記録させていたが、まあ良いものが撮れた。断末魔の中に、私を止めた者に妻をくれてやるだ娘を差し出す、酷いのでは奴隷をくれてやるとかあって頭を抱えたくなった。我がフロリアーゼ王国の厳粛にして平等を保障する法では、重婚も奴隷の所有も認めてないのだが、全部ジョン王子が許したことにすれば良いと聞こえたような。


「あの無能王子がここまで出来るとは思いわないが、黒幕を探る必要がるな。まあ、それは他に任せて、私はオルレイド王子を愛でるという崇高な使命がある故、これにて失礼」


「いや、僕は大丈夫だよ」


 私は絹のようなプラチナブロンドの紙を一束掬って口付け、白磁のような肌に触れ、顔のラインをなぞり創造神ガイアの加護を受けた王族のみに発現する海の波のようなきらめきを宿した青の瞳を見つめ、微笑みかけた。


「ゼト、ごめんね。ここの後始末頼んでいいかな?」


「かしこまりました。ごゆっくり」


 私はオルレイド王子を自室に送り届け、思い切り愛でようと思ったのだが暴れすぎてお呼び出しを喰らってしまった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る