第32話
――三智慧人
「通信記録をしらみつぶしにすれば黒幕にたどり着けるかもしれませんが……私は、もう一度SNSを調べてみたいです」
「SNSに黒幕がメッセージを残してるってこと?」
「黒幕は用心深いのでそんな軽率なことをしないと思います。ただ、メッセージは無くても、青山由紀は自分のSNSに大量に自撮り写真を投稿しています」
桜歌は青山由紀のSNSアカウントを立ち上げると、彼女の残した自撮り写真を確認し始める。
「さっき香織さんが言ったじゃないですか、青山由紀に彼氏がいるかもって」
「言ってたけどSNSに恋人とのツーショット写真なんて残さないだろ?」
「ツーショット写真は残さないと思います。でも、例えばこの写真、明らかに自撮り棒を使わずに撮影しています。慧人さん、この写真を撮影したのは誰だと思います」
桜歌は青山由紀がテーマパークのフォトスポットで自撮りしている写真を見つけると、画像をワークステーションにダウンロードする。
「そうか、彼氏がいるならデートとかするわね」
「そして、これはマメ知識なんですが私達が目で世界を見ることができるのは眼球の水晶体が周囲の光を反射するからなんですッ!」
桜歌はダウンロードした画像を画像編集ソフトに読み込ませて、青山由紀の瞳を大きく拡大表示する。
「いたッ!」
「黒幕、いたッ!」
「これが由紀の彼氏!?」
青山由紀の瞳を拡大表示すると、目の水晶体にパルスフォンを構えた男性が写り込んでいた。
男の年齢は20代前半くらい、写真を撮るために顔は半分隠れているが、色白で目や鼻の輪郭がクッキリした顔立ちをした俗にイケメンと呼ばれる顔立ちをしている。
「この人、見覚えあるかも」
男性の顔を見て香織さんがポツリとつぶやく。
「星華高校の関係者の可能性があるわね。画像検索かけてみる」
亜沙美が画像検索をかけると、すぐにSNSに掲載された一枚の自撮り写真がヒットした。
「志村和雄。職業ダンサー兼星華高校ダンス部チーフコーチ」
桜歌がSNSに記載されたプロフィールの文言を淡々とした口調で読み上げる。
亜沙美が画像検索で探し当てた男性の正体は星華高校の関係者だった。
「ダンス部のコーチか……運動部の指導者は業務委託を受けた部外者だから、素行調査が甘かったんだと思います」
一昔前は学校の先生が顧問となり部活動を行う生徒の面倒を見ていたらしいが、最近は教師ではなく業務委託を受けた指導員に部活動を行う生徒の指導や監督を任せるのが当たり前になっている。
これは仕事が忙しい学校教師の負担を軽減するための改革だが、業務委託を受けた人物は教員免許を持っていない部外者なので稀に志村のようなゴミが学校に入り込むことになる。
「顔だけはいいわね。青山由紀も付き合おうと思ったのも理解できるけど、こいつが気の弱い生徒に売春を強要して金を稼ぐことを提案したとしたら最低のクズね」
「罪悪感無しでその提案に乗った青山由紀も最低のクズなのでお似合いですよ。香織さん、少しだけ待ってください。いまから志村と青山を地獄に落とします」
桜歌は、志村の顔写真をにらみながら攻撃的な笑みを浮かべる。
「でも、志村の通信記録なんてみつかるかしら?」
「それは、青山由紀を瞳に写った画像が手掛かりになると思います。見たところ志村が使ってるパルスフォンはグーグルピクセルなので、この機種から送信された通信記録だけを調べてみましょう」
桜歌がグーグルピクセルから送信された通信記録だけを表示するようにソートをかけると、一覧に表示される通信記録が100件以下まで絞り込めた。
「やっぱりアイフォンを除外すると減りますね。ちょうど、5分前に送信されたデータがあります」
桜歌が5分前にグーグルピクセルから送信された通信記録を解析ソフトにかけると、マッチングアプリのホームページが表示された。
「マッチングアプリ。これ、いきなりビンゴじゃない!?」
「アカウントを割ります」
桜歌はカチカチとパソコンを操作して、数分でマッチングアプリのIDとパスワードを特定してしまった。
マッチングアプリにログインして送信されたメッセージをチェックすると、思わず眉をひそめたくなる内容が書かれていた。
【希望は、ほべつ5】
【高い、ほべつ4にまけてくれ】
【今日紹介するのは処女のJKだ。いやなら別に奴に紹介するぜ】
【本当に処女なのか?】
【今日紹介する流奈は間違いなく処女のJK1だ。チャンスは今日しかないぞ】
【わかった。ほべつ5でいい。どこに行けばいい?】
【そうだな1900に。サンキタ広場に来てくれ。制服で行くからすぐにわかるはずだ】
【わかった。楽しみにしてる】
志村のアカウントから送信されているのは、紛れもなく売春を斡旋する内容のメッセージだった。
「なんかナマナマしいな……ちなみにほべつって何だ?」
「売春の対価として、ホテル代に加えて5万円支払うように要求しているんです」
「5万払っても女子高生とエッチしたいのか。売る方も買う方も人間のクズね」
「とりあえず志村が犯罪に手を染めていることは確定しました。この一連のメッセージ保存しておきますね」
桜歌は、志村と名も知らぬ男性のやり取りが表示された画面をスクリーンショットで保存する。
「これから、どうするんですか?」
「調べた情報を報告して、売春を強要された流奈さんに被害届を出してもらうようお母さんに説得してもらいます。被害届が出れば、未成年との不同意性交罪で買った側の男性は逮捕されます。そこから、男性に連絡を取っていた志村や、売春を強要した3人にも警察の捜査が及ぶはずです」
「じゃあ、私達の仕事はこれで終わり――」
香織さんが放心した表情でポツリとつぶやく。
「私達は中学生なので表立って被害者に接触するわけにはいかないんです。ここから先は弁護士資格を持ったお母さんの仕事です」
「私達が被害者に接触して被害届を出すように説得したら、不審者だと思われるもんね」
桜歌と亜沙美は自分達の仕事は終わったと言わんばかりに肩の力を抜く。
二人の話を聞く限り、あと俺達に出来ることはマッチングアプリの通信記録を保存して、志村の余罪の証拠を残しておくくらいしかないだろう。
「いや……ちょっと待って。私、こんなのイヤだッ!」
今までずっと控えめな口調で話していた香織さんが、不意に血を吐くような叫びをあげた。
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