第18話 収益を剥奪された間男

――――【哪吒目線】


「その子は……」

「ああ、私と哪吒の愛の結晶だ。たま、この人がパパだよ」


 ニャ~ンッ♪


 志麻姉ちゃんは俺がたまと呼ばれた猫の前脚を手に取り、俺に向けて挨拶っぽく振る。とんでもないことをさらっと言ってのけるので、せた。


「冗談だ。猫が私と哪吒の子などあるはずがない」

「変なこと言うなよ……」


 本物の動物の脚かと見紛うほと滑らかに動く義足……人智を越えた技術を持つ志麻姉ちゃんのことだ、何らか方法を駆使して、俺と彼女の子を作り出していてもおかしくない。


 俺の認識ではマッドサイエンティスト、ギリギリ一歩手前で踏みとどまっているような人だから……。


「私が哪吒の子を欲しがっているのは冗談ではないがな」

「ぶほっ!」


 志麻姉ちゃんがくるりと踵を返すと白衣がなびく。俺はまた噎せる。


「私の赤ちゃん部屋はいつでも哪吒のホットミルクで授乳されてしまうことを望んでいるぞ」

「俺は望んでねえ!」

「そうか……」 


 あまりにもセクハラが過ぎる発言を否定すると志麻姉ちゃんは肩を落としてしょんぼりしてしまう。彼女は俺に背を向け、肩を震わせていた。


 も、もしかして泣かせてしまった?


 ちょっと言い過ぎたかと思って、彼女の傍に寄ると……。


「志麻姉ちゃん……ごめん、そんなに俺のこと思って……」

「ふふっ、ようやく哪吒もその気になったんだな。うれしいことに今日は危険日、孕ませ日よりだぞ」

「全然うれしくねえよ!!!」


 心配するんじゃなかった……。


 それになんだよ孕ませ日よりって……。


「しかし、今の哪吒だと私を抱き締めることができまい。まあ私は構わず哪吒を抱き締め溺愛してやるんだがな」


 志麻姉ちゃんに馬乗りなられても足腰の力で振り解くことはできた。だがそんなことをすれば彼女がベッドから転げ落ちて怪我をさせてしまう。


 それだけは嫌だった。


 【神の見えざる手】も使い過ぎれば勘のいい志麻姉ちゃんに見破られる可能性もあった。


 やっぱり義手はあった方がいい。


 たまの前脚の義足を羨ましそうに見ていると、志麻姉ちゃんは抱えていたたまを床へ置く。


「哪吒はヒヒイロカネは知っているな?」

「ああ、もちろん」


 ヒヒイロカネはダンジョン深層からもたらされた希少金属で他の金属とまったく異なる性質を持つ。俺の父さんが発見した遺失物ドロップアイテムの一つだ。


「小次郎さんからヒヒイロカネを分けてもらい、私の開発している義肢に使わせてもらっている」


 昔父さんが顕在だったとき、ヒヒイロカネを発見したとニュースになった。小さかった俺にはいまいちよく分からなかったが、父さんが人に誇れる仕事しているだな、とうれしかった。


「今、たまが填めている両前脚にもヒヒイロカネが使われている」

「あの子に……?」


「ああ、たまは不幸にも交通事故で前脚を失ってしまった。私はたまに協力してもらい、義足を作ることに成功した」


 俺は思わず、唾液だえきを呑み込む。


「哪吒にも義手を作ろうと思うが条件がある。哪吒も私と婚約して夫婦にならないか?」


 今俺には志麻姉ちゃんがうら若き乙女を魔法少女にしようとする白いもふもふの悪魔に見えた。


「志麻姉ちゃんがすでにたまと婚約済みなら俺の出る幕はないよ」

「何を言っている? たまは猫だ。猫と婚約はできないぞ」


 初手、たまが俺たちの間にできた子だとか言ってたじゃん!


 俺が志麻姉ちゃんと婚約することを渋っていると彼女が軽くため息を吐いて言う。


「まあ私に哪吒を困らせたい気持ちはない。私たちの再会を祝して、プレゼントするつもりだった。もう哪吒用の義手は作製済み……」


 俺が両腕を失ったことを知ってた志麻姉ちゃんは俺のために義手を用意してくれてたなんて……。


「ただあとは哪吒に扱えるかどうかだけ。ヒヒイロカネは他の金属と異なり人の持つ意志の力マインドに反応して、共振する」


 志麻姉ちゃんが大型の金庫を開け、その中から小さなアタッシュケースを取り出し、テーブルへ置く。


 ケースを開けると中にはちょうど親指と人差し指を繋げたときにできる楕円と同じくらいの大きさ金属が宝石のような形で鎮座している。


 志麻姉ちゃんはそのヒヒイロカネに向かって手をかざした。その瞬間眩い光が差し込んできて、俺は思わず目を覆ってしまう。ヒヒイロカネは僅かに宙に浮き、ぶるぶると微細な振動をしていた。


「志麻姉ちゃん!?」 

「これが共振だ。私の義肢は東都大が推すAI制御とはまったく異なる。マインドという確固たる信念の下でのみ動く代物だ」

「マインド?」


「何かを成し遂げようとする意思の力だ」

「もしかして……念動力みたいなの?」

「そうだ!」


 共振現象を目の当たりにした俺は志麻姉ちゃんを信じるが、人によってはオカルティックに思われても仕方ない。何となく、志麻姉ちゃんが大学から追い出された理由が分かった気がするけど……。


「あるとき私が哪吒のことを思うとヒヒイロカネが振動し始めたのだ。私は哪吒に想い馳せ、ありがたくセルフプレジャーに使わさせてもらっている。控え目に言ってワイヤレスで振動してくれるので最高だな」


 志麻姉ちゃんは俺にサムアップしながら使用感を語る。最高どころか学生の俺の前で自家発を語るのは控え目に言って最低なんだが……。


「ヒヒイロカネの共振はガスも電気も水道も必要ないが、ある程度訓練が必要。共振が操れないと男と愛の営みをしようとも感じられないマグロ女同然だ」


 その喩え、必要?


 なんて突っ込もうかと思ったが志麻姉ちゃんはヒヒイロカネの入ったケースを俺に寄せてきた。


「哪吒もやってみろ」

「ああ」


 なんだか良くある入学試験みたいだが、俺も志麻姉ちゃんみたいに腕があるような感じで【神の見えざる手インビジブルアームズ】を翳して精神を統一した。


 バーーーーン!!!


 ヒヒイロカネが見えない速度で天井に当たり、めり込んでしまった。


「ごめん、志麻姉ちゃん……」

「驚いたな……常人なら少し浮かすだけでも半年以上の訓練を要するというのに。私は哪吒への愛ゆえに一日で浮かせられたがな!」 


 志麻姉ちゃんは天井に突き刺さったヒヒイロカネを見て目を丸くする。


「しかし困った。今日はひとりえっちできそうにないな」


 志麻姉ちゃんは俺の股間を女豹のような鋭い眼差しで見てきていた。俺はというと天井に刺さったヒヒイロカネを見て思う。


 つかあれを自家発に使ってたのかよ!!!



――――【颯真目線】


「はあ、はあ、はあ……」

「大丈夫? 颯真くん……」

「ああ、この程度で俺がやられる訳ねえだろ!」

「う、うん……」


 オレは何とかスケルトンの群れから逃れ、岩陰に身を潜めていた。あんな雑魚モンスターにカイザーと呼ばれるオレがおめおめと逃げ回るなんて屈辱そのものだ。


 まさかゆきが哪吒に未練があってオレを罠にはめようとしたのか!?


 手胸元で合わせ不安そうなゆきだったが、内心何を考えてるのかまでは分かんねぇ。あとできっちり誰の性欲処理オナホなのか分からせてやんねえと……。


 だがゆきは逆にオレを責めてくる。


「ねえ、颯真くん……。アリシアさんが婚約者ってどういうことなの?」

「こんなヤバいときにそんなこと言ってる場合かよ。あとでちゃんと説明してやるから待ってろ。今はこっから脱出すんのが先だ」


 今ゆきに離脱されっとマジでヤバい。この状況で回復術士ヒーラーなしでダンジョンから脱出とか無理ゲーすぎんだろ。


 ヴーッ♪ ヴーッ♪ ヴーッ♪


 スマホが振動して通知があったことを知らせてくる。


 なんだよ、ヤバいときに!


 スケルトンどもにバレて、オレが大怪我したら訴えてやる!!!


 そう思い、スマホを確認してみると……。


【あなたのチャンネルはD Tubeの利用規約に対する違反により収益化が無効になりした】


「何だとーーーーッ!?」

「颯真くん、大声出しちゃダメ!」


 オレはあろうことかクソD Tube運営にキレて、大声で叫んでしまった。するとワラワラとスケルトンどもが湧いてきて、またオレたちの周りを取り囲んでいた。


 くそったれが!!!

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