転生したら、ヒロインがいた件

開拓/かいたく

 

 高校二年生の二学期、12月の始め。いつものように、帰り道の電車のなかで、俺は眠っている。


『まもなく、〇〇、〇〇お出口は〜』

 

 ガタンゴトンと揺れるなか、電車が駅に到着することを告げるアナウンスが、眠っていた俺の意識を覚ます。

 

 欠伸をして、背筋を上に伸ばし、ボヤッとした意識のまま窓を見ると、外は何も見えないほど真っ暗だった。

 

 電車が止まり、ドアが開く。

 つられて一瞬、ドアの方に視線を向けるが、降りるも、乗る人もいない。視線を元に戻す。車内にいるのは、俺一人。ふと、意味もなくため息が出た。


 起きた直後なのか、体の熱がなかなか冷めない。全身に疲労が蓄積し、ただだるいという感覚だけが残る。


「まあ、課題のためとはいえ、徹夜もすればこうなるか……」 


 俺の通う私立高校は、全国で一番課題が多い。そのせいか、俺のように寝不足の生徒が日を追うごとに増加している。

 学校への批判、悪愚痴は日常茶飯事。ブラック企業ならぬ、ブラックハイスクール。

 

「学校もクソみたいな量の課題出しやがって…………はぁ、まだ残ってるし、さっさと終わらせて早く寝たい」


 疲労で死にそう……。

 なんで俺、こんなことしてるんだろう…………。


 俺は額に手を当てながら天井を見上げる。


 この学校に入ってからというもの、俺は自分を助けてくれるかわいいヒロインが現れることを夢見るようになった。


 中学の頃に好きで読んでたラノベのヒロインは主人公に優しく、美人で、辛い時に手を差し伸べてくれる、今でも俺のヒーローだ。


 何故美少女ヒロインに助けてもらいたいからと言えば、それは俺が男だからだろう。


「ヒロインに会いたい、助けてほしい、一緒にイチャイチャしたい…………」


 自分でも気持ち悪いことを言っている自覚はあるが、周囲を忘れるほど俺の心はズタボロだった。


「来てくれないかな、俺を助けてくれるヒロイン…………」


 本当に来てくれるはずがないというのはわかっているが、現実逃避しなければどうしようもなかった。


 次の瞬間、巨大な光が視界を覆った。


「う、うわぁぁぁ!! 眩しい!!」


 俺は反射的に目を瞑った。


 数秒ほど経ち、光が弱くなっていく。

 

「ああ、今のはなんだったんだ? …………!?」 


 ゆっくりと瞼を開けるとーー先程まであった天井がなくなり、が空を照らし出していた。


「……………………これは夢か?」


 目覚めの朝。学校が始まる絶望の時間。


 太陽の光にトラウマを抱えていた俺は、突如訪れたストレスに耐え切れず、限界を迎えた俺は、意識を失って前へと倒れ込んだ。

 







 

 しばらくして、俺は目覚めた。

 どうやら気絶している間に、知らない誰かが俺をここに運んだらしい。


 ベッドの上にいるのがわかる。極上のふかふか…………体に蓄積していた疲労から解放され、俺の体はここにとどまることを望んでいる。


 学校とかどうでもいい……もう少し休もう…………。

 

 そう思っていたのだが。


 コツコツコツコツ。外から靴音が近づいてくる。 

 ガチャリと、ドアが開かれ、一人、部屋に入ってきた。

 


 俺は咄嗟に布団で全身を被った。反射的だった。特に理由は無かった。しかし、一度寝るふりをしてしまえば、相手が部屋を出すまでやり過ごすしかない。


 相手は目の前にいる。俺は起きていることを気づかれないように、じっと目を瞑り、体を静止させる。


 五秒……十秒……二十秒……一分…………。


 少しして、そいつは扉の方へと戻って行く。


 やっといった……。


 しかし油断した束の間。そいつは突然振り向いて……。


「わっ!!」


「うおっ!?」


 突然、大声で俺を驚かせた。俺は声を漏らしてしまい、当然、《彼女》と目が合う。


「フフッ、やっぱり起きていたのね」


 そこには一人の令嬢がいた。銀髪の髪のロシアン美少女。白と紫で覆われた豪華なドレスがよく似合う。

 何より、大きく膨らんだ胸元が目に入った。


 もしやこれが流行りの異世界転移というものだろうか。



「別に隠れなくても、取って食おうだなんて思ってないわよ」


「あ、ああ」


 少しホッとする。彼女はまともな人間のようだ。


 

「私はリーシャ。この屋敷に一人で住んでいるわ。あなたは誰で、どこから来たの?」


 少女が優しく問いかけた。


「俺は、竹町旭たけまちあきら。学生だ。どこから来たのかは、聞かないで欲しい。どのみち帰れないだろうから」


「そう……私が見つけた時、あなたは裸で倒れていた。身ぐるみを剥がされた跡があったわ。……つらいわね」


 異世界に転生する前、俺は学校指定の学ラン姿で通学用のリュックを背中に背負っていて、中には学校の課題やノート、筆記用具、タブレット端末、スマホが入っていた。


 つまり、元の世界の思い出が全て消え失せたことになる。

 

 嫌なことはあったけど、大切な家族や、少ないけど友人はいた。漫画の登場人物みたいに、簡単に捨てられるものじゃない。


「もう、会えないんだな…………」


「…………!」


 彼女は悲しそうな顔をしたかと思うと、突然、俺の頭を豊満な胸に抱いた。


「…………それは初めて会う人にするには大胆すぎないか」


「大胆でもいい。だってあなた、泣いてるじゃない」


 彼女に言われ気づく。そうか、俺は泣いているのか。


「悲しんでいる人を放っておかないわ。それに、男って胸が好きでしょう?」


「優しいんだな」


「私も家族や友人と死に別れて一人になった。そんな時、この屋敷の前の持ち主が私を助けてくれたの」


 屋敷を見渡す。手入れが隅々まで行き届いている。きっと、彼女は準備していたんだ。自分のように一人になって居場所を失った人が、いざという時に拠り所になれるように。


「だから、今度は私が出される番。もうあなたは大丈夫。好きなだけ、ここに居ていいのよ」


 俺は願っていた。もしかしたらヒロインが俺を助けてくれるんじゃないかって。


 彼女が……俺の……。


「なあ」


「うん?」


「もしかして……君は俺のヒロインか?」


 ヒロインという、初めて聞く言葉に戸惑っている様子だったが、少しして彼女は満面の笑みで答えた。


「ヒロインが何かはわからないけれど、あなたの救いになるのなら、私はあなたのヒロインになるわ」


 俺は彼女をずっと待っていたのかもしれない。


 俺はこの日、彼女に救われた。そして、俺は彼女の信念に心を打たれ、共に訪れる迷い人たちを救っていくのだった。

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