『16barsの鼓動』第二十五章(改定完全版)

町田代表オーディションも、いよいよ佳境に入った。

 二次戦を突破したSilent Riotの次の相手は――Rhyme Joker。

 実力も人気も段違い、町田の最有力候補だった。


 放課後のサイゼリヤ。

 ことね、彩葉、芽依の三人はドリンクバーを前に、テーブルに顔を寄せ合っていた。


「どうする……? また潰されるかも」

 ことねはペンを握った手を震わせた。

「大丈夫! この前の《Backstage Riot》でみんな沸いてたじゃん!」

 彩葉は明るく言うが、瞳の奥には不安が揺れていた。

「……相手の完成度は高い。だから、私たちは“粗さ”を武器にする」

 芽依の言葉に二人が顔を上げる。


「粗さを……武器に?」

「完璧な相手にぶつけるには、私たちの未完成さが逆に刺さる。

 ……音を荒らし、言葉を叫ぶ。私たちにしかできない音だ」


 ことねの胸に電流のように響いた。

「……うん。負けてもいい。でも、“Silent Riotはここにいる”って刻みたい」


 そこへ橘姉妹が乱入してきた。

「なにその真剣会議! 青春すぎ!」

「勝ったら打ち上げ行こーよ!」

 ことねは顔を真っ赤にしながらメニューで隠した。


 さらに北山が隣の席で叫んだ。

「女子高生代表、Silent Riotしか勝たん!!」

 すぐに店員に追い出されていった。


 その夜。

 忠生公園。

 ベンチに座ることねの隣で、猫丸が缶コーヒーを開けた。

「完璧は退屈だ。粗さは生き物だ。……暴れろ」

「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ〜」

 みのたが笑い、べすがことねの顔を「べろりんちょ」。


「っもう……でも、ありがと」

 ことねはマイクを握るようにペンを握り直した。


 ――Silent Riot。

 Rhyme Jokerとの再戦を前に、彼女たちの鼓動は高鳴り続けていた。

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