『16barsの鼓動』第八章(改定完全版)
週末の午後。
町田駅近くの小さなショッピングモールのイベントスペース。
そこでは「高校生パフォーマンスデー」と題された無料ステージが開かれていた。
歌やダンス、演劇。ステージの上は賑やかで、観客席には買い物帰りの親子や学生たちが並んでいた。
「ここで……やるの?」
ことねは緊張で固まっていた。
ノートを握る手が震える。
「大丈夫だって!」
彩葉が笑顔で肩を叩く。
「私たちの《Backstage Riot》、ちゃんとできる!」
芽依は無言でターンテーブルをセッティングしていた。
司会の合図で、三人はステージに立った。
観客から小さなどよめきが起きる。
「女子高生?」「ラップ?」「珍しいな」
芽依がビートを刻む。
ことねがノートを見て、声を発する――はずだった。
……声が、出ない。
喉が締めつけられ、言葉が空気に変わってしまう。
彩葉がフォローしようと歌を入れるが、リズムが合わず空回り。
芽依のスクラッチもぎこちなく、全体が崩れていく。
「なにこれ……」「下手くそ……」
観客席から冷たいざわめきが広がった。
ことねの頭が真っ白になる。
――笑われてる。
足が震え、ノートを落としてしまった。
演奏は途中で止まった。
観客の拍手はなく、気まずい沈黙だけが流れる。
「……ありがとうございました」
彩葉が頭を下げ、三人は逃げるようにステージを降りた。
裏手でことねは膝を抱えてうずくまった。
「やっぱり無理だ……私なんて、声にしたら笑われるだけ」
彩葉は必死にことねの肩を揺さぶった。
「ちがう! ことねの言葉、絶対届くって!」
「……届かないよ」
芽依はターンテーブルを片づけながら、ただ静かに言った。
「……悔しい」
その一言が、ことねの胸を刺した。
芽依も、彩葉も、悔しいと思っている。
なら、自分だけ逃げるわけにはいかない。
そのとき、観客席から声がした。
「粗さがいいんだよー! 青春は音に宿るんだ!」
振り向くと、猫丸が手を振っていた。
横でみのたが「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ〜」と笑い、べすが「わんっ!」と吠えて突進。
ことねの顔に――「べろりんちょ」。
「……っもう! やめてよ!」
涙混じりに笑うことねを見て、彩葉も芽依もつられて笑った。
ステージは失敗。
でも、その失敗が三人の中に「もっとやりたい」という火を灯していた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます