『16barsの鼓動』第六章(改定完全版)

 週明けの放課後。

 町田総合高校の音楽室に、ことね、彩葉、芽依の三人が集まっていた。


「じゃあ……やってみよっか」

 彩葉が息を整え、ことねを見つめる。

 芽依は無言でターンテーブルに手を置いた。


 低音が鳴る。

 まだ拙く、音も不安定。

 でも、そのビートにことねの心臓が反応する。


「……ノートの言葉、声にしてみる」

 震える声で、ことねは一行目を吐き出す。


「曇った窓に書いた文字、

 誰にも読まれず消えてった日々」


 彩葉のハミングが重なる。

 ことねの声はまだ小さいけど、彩葉の歌が後押しするように広がっていく。


 芽依の指がターンテーブルを操る。

 ノイズ混じりのスクラッチが入り、音に「生きてる匂い」がした。


「……これ、楽しいかも」

 彩葉が笑う。

 ことねの口元も、ほんの少しだけ緩んだ。


 まだ未完成。

 けれど、三人が同じ音を共有する瞬間、確かに空気が変わった。


「……なあにこれ。下手すぎて笑える」

 扉の外から、橘陽菜と紅葉が顔を出した。

「でもなんか、青春してる〜!」

「これは文化祭フラグ立ったな」

 冷やかす二人を無視して、ことねはもう一度ノートを開いた。


 そのとき。

「お前ら、まだ粗いなぁ!」

 廊下を通りかかった北山望が窓に張りつき、ニヤニヤしている。

「女子高生ラップとか尊いにも程がある!」

「先生ー! また北山ですー!」

 紅葉が叫び、すぐに職員に連行されていった。


 残された音楽室に、三人のビートがまた鳴り始める。


 ――ガタガタ。

 ――でも確かに動き出した。


 Silent Riot。

 その名前はまだない。

 けれど、三人の鼓動はひとつのリズムを刻み始めていた。


 窓の外。猫丸とみのた、そしてべすが校庭のベンチに座っていた。

「線が一本、動き出したな」

「おばちゃんも適当なこと言ってるだけだよ」

 べすは「わん!」と吠え、音楽室のガラスを前足で叩いた。

 三人は振り返り、思わず吹き出した。

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