第4話 流石に恥ずい


 その後、うちの学校は朝練が終わるとそのまま朝のホームルームが行われる。そこでその日の知らせや読書時間が設けられ、そのまま授業が始まるのだ。

 今日の授業は一限目が数学、二限目が魔法学、三限目が剣技の授業だった。

 私は全くと言っていいほど剣技ができないので友達に笑われて気づけば終了。

 そうして昼休憩がやってきた。


 今は机に伏せながらスライムのように溶けている。


「ルーリ、一緒にご飯食べよ!」


 ふと聞き覚えのある声が聞こえてきた。


「……んー?」


 顔を上げてみるとそこには楽しそうに笑顔を振りまく由利原の姿があった。


「あぁ由利原か。他所よそで食べてくれぃ。私は疲れたんだ」


「およ? お疲れなの? 朝練の時はあんなに元気だったのに」


「あれは私の中の漢心が女に負けるんなって叫んでただけだ。そしたらなんか調子出てきた」


「うおっ!? こ、この差別主義者め! なんだその理由は!?」


 由利原は私の頭を掴んでぐらぐら揺らし始める。

 嘘みたいに聞こえるが半分はガチである。今朝は久しぶりのテニスだったから(私は久しぶりじゃなかったけど前世の記憶では何年もやってなかった)すごくやる気が出たのだ。

 それに加え、今の私は結構体力があるし、頭もいい。今日は相手がどこに打つのか先読みして行動することが出来た。


 ……まあ、その後の授業は滅茶苦茶疲れたが。


 問題は授業だ。学生の本文は勉強だっていうけど、私は昔から勉強が好きじゃない。

 元々この学校でも赤点を取る程度の実力に加え、前世でも模試では全国平均を下回る程度だった。

 所謂凡人。


 前世の記憶が戻っても、そこは変わらないんだよなぁ。


「由利原、その辺にしてやれ。ルリがかわいそうだ」


「千代」


 そこに千代もやってくる。

 可哀想だからと助けに来てくれたらしい。千代様に感謝だ。


「こいつはね、一度怠けたらそう簡単には動かないんだよ。だからこうやって、無理やり持ち上げるんだ……神輿みたいに持っていくとすぐ運べる。……な?」


 な? 

 じゃない。


「おお!! 流石千代ちゃん! 頼りになるぅ!」


「お、お前らに慈悲はないのか?」


 思わずツッコミを入れた。

 てっきり千代は仲裁に入ってくれるのとばかり思ってたのに、まったくその様子はない。寧ろこっちに向かってウィンクしてきた。


 ……くそっ。


 ムカつくのに、なんかすげぇ男らしくてかっこいいな!?

 これが女のかっこよさか!

 前世の私にはなかったぞ。


「んで、どこ行くの? どっか連れて行くんでしょ?」


「うん、いつもの場所ー」


「ああ、あそこね。静香も連れてっていい? あいつもどうせ一人だからさ」


「もちのろん! みんなで一緒にお昼食べよー」


 そんな話をしながら教室を出る二人。


 どうやら私の意志はガン無視らしい。まあ、いつものことと言えばいつものことなんだが。


 一応もがいてみるが、千代の手からは逃れられそうになかった。がっちりとした拘束だ。

 千代は力が強いし、身体能力がまるで違う。しかも着やせするタイプだから服からじゃあまり分からない。まさに理想の体躯だ。


「おい見ろ、また宮野のやつが中田に担がれてるぞ!」


「またかよ。これで何回目だ?」


「んなもん数えてねえ」


 周囲はそんな様子を面白おかしく見ている。

 おい、見せもんじゃねえぞ。

 これはただの人攫いだ。さっさと止めろ。

 心の中でそう思う。


「それより見ろ、パンツが見えそうだ」


「え、まじで!? どこどこ?」


「ほら、あそこ。もう少しで……」


「……っ」


 道行く男子生徒の視線に私は思わずスカートをグッと下げた。


 ちょっと待て。

 それは流石に恥ずい……。

 下着は女子の、サンクチュアリだぞ。

 

 そう思ったが、私の手の下には千代の手がすでに置いてあった。


「ふんっ、変態どもめ。誰がルリの下着を他のやつらに見せるかよ。下腹部洗って出直してこい!」


「ぎゃんっ!?」


 千代はそういって私のお尻をパチンッと叩いた。

 思わず変な声が漏れる。


「ちょ、ちょっと! 何で今お尻叩いたの!?」


「なんでって……そりゃ、あんたが誰のものなのかみんなに教えてやったほうがいいだろ?」


「私は誰のものでもないわ! 早く下ろせっ」


「やなこった。目的地まで安全運転で運んでやる」


「千代ー、静香見つけたよー。一年生のトイレにいた」


「よし、よくやった。じゃあみんなで行くぞ」


「おぉおお!!」


 手を挙げて叫ぶ由利原。


「くっ。私の意志ガン無視かよ。こいつら無敵か!?」


 その後、どうにか足掻いてみるが、どんなに力を込めても千代の腕からは抜けられる気がしなかった。これはもはや完全な誘拐だ。警察に訴えたら勝てる気がする。


 とは言え、何を言ったところで結果が変わることはない。

 抵抗虚しく私は千代に連れていかれるのだった。

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