漆 五分の兄弟②
「ほ〜ん、
…まずい。口を滑らした。
牌を切る手が震える。
そこに
話題が
丁抹組は、亜米利加組が兄弟盃を結んでいる先であり、
緑土島は加奈陀組のシマと欧州連合のシマとの間、加奈陀組よりの位置にある極北の島で、丁抹組の分家がシメている。
「いや〜親分……こげんこつ言うのもアレじゃけぇど、
「ほうか……そいはアカンのォ。
そや
ちいと掘り起こしてみる価値はあるけぇ。」
中牌を切った
「昔はウチらもようシノギ張っとったんじゃけぇど、中共組の外道どもが大安売り仕掛けてきよってからに、稼ぎがガタ落ちして、夜逃げするモンも出よったんですわ。
丁抹組の緑土島なんかも、あそこはブツの宝庫ですが、こないだ中共組が唾つけてきよったんです。
ほんで、ウチと丁抹組でちぃとカマシ入れてやったら、連中、芋引いて尻尾巻いて逃げよったけぇ、今は手付かずですわ。」
「何じゃいその丁抹組の緑土島っちゅうのは。」
「ここは
チャカもちゃんと揃えとりますけぇ、いざとなりゃすぐ動ける構え整えとりますわ。」
「ああ、あそこはええとこですけぇ、親分。
ウチのシノギで使いよる無線も、あそこに中継基地置いたら、だいぶ使い勝手が良うなるけぇの。
……すんまっせん親分、ロンです──立直・平和・ドラドラ、ごっつぁんです!」
アガリを宣言しながら、
「アッ!
……ったく、ホレっ、早よ持っていけッ!
ほんで
部屋住みから水割りを受け取って飲んでいた
「…おやっさん──あそこは丁抹組のシマじゃけぇ。
いくら兄弟分の亜米利加組が相手じゃ言うてものォ、シマぁ売るっちゅう話になったら、カタギさんに示しがつかんけぇ、丁抹組もそがぁ簡単に手放さん思いますわ。」
「ほうか……そいならのォ、緑土島の丁抹組の事務所に、ウチの若い衆に顔出させて、ナシつけてこさせりゃええんじゃろうが。
そんかわり、タマの一つも取る覚悟で動くんなら、話も早うつくけぇの。」
「おやっさん──そがぁな真似、ほんまやめてつかぁさい!
丁抹組はウチと五分の兄弟分じゃけぇ──その盃汚すようなことしたら、那統会の兄弟衆からも縁切られますけぇ。」
しかし…同席していた『実話任侠アメリカン』の記者に口止めしておかなかったのはまずかった。
というか口止めしていても
『実話任侠アメリカン』の記事を発端に、実話各紙が
「緑土島はのォ、
ウチが面倒見るんなら、話も早かろて。
丁抹組?ああ、ゼニは払うけぇ、そのへんは心配いらんわい。
……ちぃとウチの若い衆がお邪魔するかもしれんけぇ、その時はよろしく頼むで。ガハハハッ!」
──この記事は、丁抹組はもちろん、那統会に参加する各組も激怒させた。
数日後の那統会の寄り合いは、荒れた。
「おい
盃も無ぇ昔ならともかく、今はワシら兄弟分だでよ!
その盃をなんだと思っとるんだわ!
指詰めて
「
代紋に泥塗られて、黙っとれるわけねぇがや。
……覚悟はできとるんだろうなァ?あァ?
ワシはなァ、代紋のためなら身体張るで──それがウチの筋やがや。
よう聞け!ウチの緑土島はなァ、売りもんじゃねぇんだわ!!」
丁抹組の
上着を脱ぎ棄てたその背中には、氷原を駆ける一匹の白狼が、冷たい視線を放っている。
沈黙を守るかの如く閉じられたその口からはしかし、義の道を外れたものを決して許さぬが如く、氷の牙がのぞいている、それは見事な彫り物だった。
「…
なァ
『兄弟の誰かのシマにカチコミ入れられたら、全員でその外道にカエシ入れる』──そう約束したん、まさか忘れてへんやろなァ?
アンタが丁抹組に鉄砲玉飛ばすっちゅうんなら──ウチら、チャカ持ってアンタんとこ行くで?
……ええんか、ホンマに。」
「何言いよるんじゃ、ワレェ!?
来れるもんなら来てみいや、この三下がぁッ!
貫目も何も足らんカタギ崩れが、ウチの兵隊に勝てる思うとんか、オォ!?
喧嘩ん時はウチの組におんぶにだっこで、尻拭いてもろうとったくせに、相手見てからモノ言わんかい、バカタレがぁッ!」
鳴門組長は一歩も退かずに言い返す。
「……ああ、そうじゃ。今日はおどれらに一つ言うときたかったんじゃ。
よう聞けや三下ども──
さっきも言うた通りじゃが、おどれらは喧嘩ん時、ウチの組がおらんかったら手も足も出らんで、ションベン垂らして逃げ帰るだけじゃろが。
ちぃと甘えすぎとるんちゃうんか?テメェのケツくらい、テメェで拭かんかい!
よう聞け──おどれらのシノギの最低5分、そんだけのゼニ集めて、亜米利加組からチャカ買え。
そしたらしゃーない、出入りん時はウチの兵隊貸したるけぇ。
それが出来んっちゅうんなら、亜米利加組は一切手出しせんけぇのォ。
……分かったんか、ボンクラどもッ!!」
場は静まり返る。
しばしの沈黙の後、独逸組の
「分かったで、鳴門──
……せやけど、ホンマにええんやな?ウチ、チャカ買うてまうで?
あとで『そんなつもりやなかった』っち言うても、もう遅いがや?」
那統会。これには欧州連合の特定の組が強くなりすぎ、『覇権国家』となることを防ぐ意味もあった。
欧州連合はユーラシア本州に位置する。…ハートランドに手が届く場所だ。
特定の組が力をつけすぎ、ハートランドを手にすることの無いよう、各組の力が露西亜組に及ばないよう調整する。
そしていざ露西亜組との抗争になった際は、亜米利加組の戦力を加えると露西亜組を圧倒できる。
そういう絶妙な力加減となるよう、代々の亜米利加組の組長は暗躍してきたことを、
その
しかし、この日、那統会の亀裂は決定的となった。
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