ガール・ミーツ・忍者
瑠東睦果
ガール・ミーツ・忍者
あろうことか私は、忍者に恋をしてしまった。今は21世紀の現代日本で、私は平凡な女子高生だというのに!
きっかけは、電車の窓からふと見えた光景だった。その日も私は、通学のために電車に乗り込んで車窓から見える景色──ビルやコンビニなどの建物が一様に後方へ流れていくその光景をぼんやりと眺めていた。今日の私は一段と憂鬱な気分だ。学校に行って、勉強をして、帰って……同じ日々の繰り返しに私は飽き飽きしていた。
「……あれ?」
その時、私は微かに違和感を覚えた。不思議に思い目を凝らすと、窓の外には超高速で動く“誰か”。全身真っ黒のその人物が、ビルの上を全力で走っていたのだ。
……え? これって、どうみても。
「…………忍者、だよね?」
いやはや、これが忍者でなくて一体なんだというのか! 車窓から見える彼の、人間離れしたその軽技! 件の忍者は、窓の外に見える建物の上を端から端に跳び、跳び、また跳んで……高層ビルにぶつかりそうになる寸前、煙に包まれてドロンと消えた。
そして──次の瞬間には、高層ビルを超えた中空に出現し、またもや縦横無尽に跳び回っている。
その姿はやはり、日本が誇る忍者そのもので。
いつのまにか私は、彼から目を離せずにいた。他の乗客がスマホに気を取られている間、私はただ忍者が壁抜けをしている様を眺めている。
「カッコいいなぁ……」
だから自然と、私はそう言葉をこぼしていた。きっと今の私は、恋をする乙女の顔をしていただろう。心臓が高鳴り、頰が紅潮する。
「推し、見つけちゃった」
見ているだけで元気をもらえ、応援することでパワーを受け取り、日々を生きる糧となるような存在──推し。
そういう昨今の推し活文化が、推しのいない私にとって理解できていなかった。だけど、そうか。
恋と同じなんだ、推しができるのって。
窓の外には絶えず走り続けている忍者の姿。彼から感じるその不屈の精神になんだか私は元気づけられた。
時間を忘れて眺めていたせいだろう、気がつけば私が乗る電車は学校の最寄り駅で、車窓は電車のホームを映している。
「……明日も、見れるといいな」
大切な推し──忍者の存在に生きるエネルギーを貰い、私は少し晴れやかな気持ちになって電車を降りた。
ガール・ミーツ・忍者 瑠東睦果 @ruto_mutsuha
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