冒険者ギルドの多重下請け

ちびまるフォイ

ギルドの依頼リレー

「こんにちは。冒険者ギルド『アクトク』へようこそ。

 依頼を受ける場合は隣の依頼ボードをご覧ください」


「どれどれ……。あのずいぶん期間短くないです?

 それにぜんぜん数もない……」


「そうですか? こんなもんですよ?」


「ドラゴン討伐が本日中。ゴブリン掃討がなるはや。

 迷宮での宝回収は午前中に完了とありますけど」


「そういうものです」

「そういうものなんですか……」


迷宮探索の依頼をうけることにした。

といっても時間は限られているので慌てて迷宮に飛び込む。


時間内にクリアできなければギルドに違約金を払うため、

迷宮探索を楽しむ余地なく壁を破壊しながら突き進む。


なんとか迷宮の最深部にある宝を回収しギルドにとんぼ返りした。


「はあ……はあ……。依頼……終わりました……」


「チッ。制限時間内ですね」


「いま舌打ちしました??」


「回収品を見せてください。間違いないです、龍を呼ぶ笛ですね。

 むむ……これは……」


「なにか?」


「傷がついてます」

「いや元からですよ!?」


「そんなことは知りません。これは違約金案件ですね。

 依頼の報酬金から天引きしておきます」


「ええ!?」


「あとは地図のレンタル代、迷宮への入場料。

 ギルドでの受付サービス量、チャージ金、お通し代をまるまる引きまして……」


ギルドの受付は最終的な報酬金を提示した。


「しめて、マイナス1万金をいただきます」


「なんでギルドで依頼達成して、お金とられるんだよーー!!」


ギルドを出てからも冒険者はイライラが止まらなかった。

聞くと、このスタイルはどこのギルドでも同じらしい。


依頼を達成して報酬を得るどころか、

むしろ奪われるので冒険者稼業は衰退へと突き進んでいるという。


「なんでこんなことに……。あれ?」


ギルドの裏手に行くと、ギルド長が別のギルドへと向かっているのを見かけた。

好奇心でついていくと、別のギルドへと入っていく。

盗賊スキル「聞き耳」を使用して壁の向こうのやり取りを盗み聞いた。


『こちら、龍を呼ぶ笛の依頼を達成しました』


『はいご苦労さん。はいこれ報酬。お通し代は天引きしてるから』


『はい……』


冒険者は耳から湯気たつほど怒った。


「なんで俺が達成した仕事なのに、

 まるでギルドが達成したみたいになってるんだ!!」


ギルドが別のギルドから依頼を受けて達成を報告する。

この構造はさらに続いているらしく、別のギルドはさらに別のギルドへ。


自分が達成したはずの依頼は、リレーにリレーを重ねて

もはや誰の努力で達成できたのかわからないほどギルドを経由していた。


「やっとわかったぞ……。

 どうしてやたら依頼の期日が短いのも。

 報酬がやたら天引きされるのもこのせいか!」


他のギルドの依頼を回収し、さも自分の依頼として掲示する。

それをまた別のギルドが回収して自分の依頼として出す。


それを繰り返し行っては報酬の中抜きを繰り返すものだから

報酬金はどんどんすり減り、締切はギリギリになっていく。


こんな状態で冒険者はこき使われるなんて納得いかない。

我慢できずに冒険者ギルドへと向かった。


「おい! すべて聞いていたぞ!!」


「なにがですか?」


「お前らギルドは依頼の報酬を中抜きしてるな!

 なんでそんなことするんだ!!」


「決まってるじゃないですか。そっちのが儲かるからです」


「悪びれもせず……!」


「私も昔は冒険者だったんです。危険な依頼を受けては努力する。

 でも限界を感じたのでこっちの仕事につきました。

 楽ですよ、こっちの仕事は。依頼の報酬金の上澄みを吸うだけで生きていける」


「なんて自分勝手な!! 元冒険者なら気持ちはわかるだろう!?」


「ははは。嫌ならギルド側になればいいんですよ。

 それに冒険者なんて異世界からひっきりなしにやってきます。

 いくら使い潰したところで枯渇することはないんですよ」


「なんてやつだ……」


「ギルドの悪評を広めたいならどうぞ、止めはしません。

 ですが、この中抜きネットワークはギルド間で契約しています。

 あなたが悪評を流そうものなら、わかりますね?」


「なにをする気だ?」


「ギルドのネットワークであなたをブラックリスト入りさせます。

 どこのギルドに行っても依頼を受けることはできなくなるでしょう。

 ようは、全ギルドで出禁になるって話です」


「くっ……」


「真実が知れてよかったですね。さあもう行ってください。

 私はこれから依頼をさらに別の下請けギルドに流す必要があるんです」


ギルドから追い出されてしまった。


ギルド『アクトク』では別のギルドからの依頼を、

さらに別の小さなギルドへと依頼していた。


「ああそうか。そういうことならこっちにも考えがある」


その日の夜、冒険者はこっそりギルドに向かい、龍を呼ぶ笛を手に入れた。

そしてギルドが営業開始すると……。


「きゃあーー! ど、ドラゴンよーー!!」

「逃げろーー!!!」

「誰か助けてーー!!」


ギルドには笛の音に呼ばれた巨大なドラゴンが襲ってきた。

ギルド長は足をガクガクいわせながら叫んだ。


「は、はやく依頼を出せ! 冒険者はなにやってる!?」


「依頼は出したんですが……」


「じゃあなんで冒険者が討伐しないんだ!」


「うちの依頼は契約している下請けギルドにしか流せないんです!

 下請けギルドはさらに下請けへ流してる途中で……」


「そんなルール守ってる場合か! ドラゴンはすぐそこなんだぞ!

 特例でこのギルドで依頼を出せ!! はやく!!」


「ルール破ったら、下請けのギルドはもちろん、

 こっちに依頼を横流ししてるギルドも依頼回さなくなります!」


「わしのギルドが壊滅したら元も子もないだろうが!!」


ギルド『アクトク』はすぐにドラゴン討伐の依頼を出した。

このギルドとしては破格の報酬で高条件だが、冒険者は食いつかない。


「おいなんで冒険者はやってくれないんだ!!

 このままじゃわしのギルドは終わりだ!」


「そ、それが……」


「なんだ!?」


「冒険者は下請けのギルドで依頼受けてるので、

 うちのギルドが依頼を出すなんて思っちゃいないんです」


「だからなんなんだよ!!」


「どの冒険者も……このギルドの依頼なんか見てないってことです……」


「そんな……」


ギルド長が天を仰いだとき。

天井をぶちぬいたドラゴンとちょうど目があった。



「よ、ようこそ冒険者ギルド『アクトク』へ……」



ドラゴンの灼熱ブレスでギルドは跡形もなく燃やされた。



この1件があってからというもの。

冒険者ギルド間でまかり通っていた依頼の横流しはなくなったという。

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