第四話 才能、それぞれの道へ

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 ナナハラ・ナナフミ


 才能:

 賢者Lv1

 空想Lv2

 孤高Lv1

 運動音痴Lv1

 焦がれる恋Lv3


 配属:

 魔導師ギルド


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 なるほど賢者か、でもLv1ってあんまりすごくないのかな、運動音痴とかひどいな、どこが才能だよ、などなどと思いながら自分の才能を見ていると、「焦がれる恋Lv3」なる耳慣れない記述があった。ご丁寧に、その文字だけピカピカと虹色に輝いている。ちなみに空想Lv2は金色に輝いていた。ソシャゲか何かだろうか。


 これはもしかしなくても、スバルちゃんへの片思いが才能にカウントされているのでは……と思ったぼくは、急に恥ずかしくなってしまって、画面を背後のスバルちゃんから隠したいと思った。

 だがスバルちゃんは無慈悲にも、ぼくに寄りかかるようにその柔らかい体つきを押し付けながら、「おー」などと言ってぼくの才能を眺めている。


 ぼくは急に訪れた魅力的な感触と、自分の恋心がくっきり画面に表示されているのを見られている状況に、すっかりドギマギとしてしまって、平常心ではいられなくなってしまった。


「配属は魔導師ギルドだそうですね。魔法使いになれるみたいですねー。魔法とかちょっと憧れちゃいますよね」


「……穴があったら入りたい気分だよ」


「そういうところ、最高に可愛くて、素敵ですよ」


 好きな女の子に素敵だと言われているのにまったく嬉しくないのはいったいどういうことなんだろう、なんて思いながら、ぼくはふらふらと夢でも見ているような心地で台座から降りた。


「わたしもやってみますね……おー」


 後ろでスバルちゃんが、血を窪みに垂らしたようだった。ぼくはその表示が気になったが、ここからでは見ることができない。


「わたしは聖女ギルドというところにいくようです」


 台座から降りたスバルちゃんが、そういって楽しそうな笑みを浮かべた。


「せ、聖女? ってあの聖女?」


「はい。なんだかピカピカとした才能が描かれていましたね。超人Lv3とか、天使Lv3とか、聖女Lv3とか……」


「やっぱり異世界判定でも超人なんだね、キミは」


「そうみたいです。自覚はないのですけどね」


 そこで、なにかを思いついたように、スバルちゃんは突然「あ、そうだ」と呟いた。


「七原君とこのまましばらくお別れというのも味気ないので、休みの日にどこかで会う約束をしませんか?」


「いきなりだね」


「声の方、どこかいい待ち合わせ場所はあるでしょうか? そもそもこの世界に休みの日があるのかからかもしれませんが」


『聖女候補に選ばれるだけあって常人離れした少女のようだな。そんな事をここでわたしに聞く奴は初めてだ』


「別にふつうのことを聞いてるだけだと思いますけどね。どうなんですか?」


『ルカの広場の勇者ルカ像の前がいいだろう。空曜日の朝10時ごろなら、それほど混みすぎてはいないだろうな』


「空曜日ってのが休みの日なのかな」


『月曜日、花曜日、風曜日、鳥曜日、酔曜日、舞曜日、空曜日の7日間がこの世界の一週間だ。一般に空曜日は公的な休日とされているが、酔曜日と舞曜日も休日になっている場合も多い』


「そういうのを聞くと、なんだか異世界に来たなって感じがしてきますね」


「異世界人もふつうに休むみたいだね。それはとりあえず良かったよ」


「約束ですよ? お互い事情があったりして会えなかった時は、30分待ってから、次の週に待ちましょう」


「異世界だと、そういうとき不便そうだね」


『こほん。ナナハラ・ナナフミは魔導師ギルド、ホシウミ・スバルは聖女ギルドで預かることとなった。大扉を開けて外に出ろ』


 そこで声が思い出したようにそう宣言し、ぼくとスバルちゃんは二人仲良く大扉を開けて外に出ることとなった。


 クラスメイトは、どこか奇異なものを見る目で、ぼくたちのこと、正確にはぼくのことを見つめている。


 こんな風に目立ちたくはなかったが、各々がギルドなる場所で預かられる以上、クラスという形で人間関係が存続するのもこれが最後かもしれない。


 そう思えば、多少目立ったところで、特に痛手ではないと考えることもできる。ぼくはそうやって自分を慰めていたが……


「七原くん」


「なに?」


「ここで未来の聖女が祝福のキスをしてあげましょうか」


「絶対にやめて」


 一切クラスメイトの視線を気にしていない様子のスバルちゃんが、そんなことを言ってぼくを弄んでくる。


 彼女にしかわからない彼女なりの高度な遊びなのかもしれないが、心臓に悪いのでやめてほしい。


「七原。お前、星海と仲良かったんだな」


 そこで、野球部キャプテンの安藤が、何かを言おうと思ったのか、ぼくに話しかけてくる。


「はい、気に入っているんです。七原君、おもしろくって」


「そうか。やるな」


 安藤は、運動部独特のノリか何かなのか、ぐっとグッジョブのハンドサインをして、それから僕たちに手を振った。ぼくはちょっとついていけなかったが、黙ってうなずくように礼をして、大部屋を出ていく。


 それからぼくたちは先ほど氷川美里が開けた大扉をぐぐっと押し開け――意外にもそれほど力は必要なかった――その先の暗闇が支配する通路へと、歩いていくのだった。


 これが、長い長い異世界生活の、始まりだった――

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