僕達は家族だった
みねっち。
第1話 告白
「あー、流石に行けない」
右折専用指示機が黄色から赤色に切り替わった時に横断歩道の手前で待っていた俺は仕方なく停止した。
今日は早く自宅に帰らないといけないのだ。それは昼頃に母(西本 雫)から、
「今日は早く帰って欲しい。大事な話がある」
と連絡が来ていたからだ。何の話だとか詳細は聞いていない。聞いておけば良かったのかもしれない。大事そうな話ならそれなりの心持ちが出来ただろうから。
今考えれば、詳細をあの時話されていたら午後の仕事は手につかなくなっていただろう。
とにかく俺は帰りにコンビニにも何処にも寄らずに真っ直ぐ帰っている。しかしこんな時に限って信号によく引っかかる。あえて急がない。それが意外に早く目的地に着くコツなのかもしれない。などとどうでもいいことを考えている。
最後の信号を曲がると狭い路地に入っていく。
駐車場の1番端っこ。ここが自分の車庫スペースだ。ギアをバックに入れると左右のミラーを確認しながらゆっくりと車庫に入れていく。
この車にはバックモニターがない。購入した際につけなかった訳ではない。それは15年前に製造された自動車だからだ。この車は母と兄が就職祝いでと購入してくれた大切なものだ。
キーを手前に捻りエンジンを切ると助手席のカバンを持ち、足早に家に向かう。
ポケットからじゃらじゃらした鍵を取りだし、家の鍵を開ける。玄関特有少し香ばしい匂いがツンとする。靴がいくつもあるがおそらく父の靴からこの匂いは来ているだろうと予想した。しかしそれとは別で暗くどんよりとした空気が顔に当たった。
「ただいま〜、ってえ?」
軋む音が鳴る引き戸をゆっくり開けながら言うとそこには異様な光景が目の前にあった。
髪は乱れて目が隠れている母、体操座りで顔を伏せている兄(龍輝)、真っ赤な目でこちらを見上げる2人目の兄(斗亜)と土下座をしてる父(龍樹)がいた。
「大事な話ってなに……」
しばらくして沈黙を破るように俺は震える声で言った。誰も話し出さないこの状況が俺は怖かった。
視線から得られる情報で今から話される事の重さは理解できた。全身が受け入れ拒否している状態だ。
「よし、先に風呂入るから話はその後でもいいよねー」
持っていたカバンを端の方に置き、クリアケースに入った下着をそそくさと取り出し早歩きで通り抜けようとした。
「待って。ここにいて。」
いきなり大きな声を上げたのは母だった。
「えっ?まあ、後でいいじゃんか」
「だめ。とりあえずここにいて?」
酷く淡白で冷たい言葉遣いに俺は聞かざる負えなかった。俺は仕方なく近くの壁の柱にもたれかかった。
そして土下座をしていた父がゆっくりと顔を上げ重い口を開いた。
「借金が……。たくさんあって、もうこの家には居られないんだ。」
「え?」
俺は開いた口が塞がらず、理解しようと飲み込もうにもそれは喉を通らない。あまりに衝撃的な告白に立ち尽くすほかなかった。
鈍器で頭をぶたれたように俺は膝から崩れ落ちた。
いや、そんな訳ない。これは壮大なドッキリだ。
そうに違いない。そうでもなきゃ受け入れられないと俺はこの場に合わない笑みを浮かべた。
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僕達は家族だった みねっち。 @kakuyobo
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