第2話 最初の友達

「よし、今日から高校だ、頑張れ千秋、きっとうまくいく」


 学校へ出かける前、私はもう一度深呼吸をすると同時に、今日の計画を頭の中で整理し直した。絶対に同じ過ちを繰り返さない。中学の時のようにはなりたくないから。


 私の中学校生活といえば、本当に最悪だった。そう、中学三年間、一度も友達ができなかったんだ!正直なところ、なぜだかわからないけど、みんな私を避けているように感じた。明明、学業でもスポーツでも一番なのに、なぜ誰も遊びに誘ってくれないんだろう?みんな私と一言二言葉を交わしただけで、しょんぼりと去っていく。本当にセンスのない人たちだ。


 でも、それらはすべて過去の話。今の私は高校生だ。友達なんて、いくらでもできるはず。中学の時は、きっと入学直に数日休んで、みんなと知り合う機会を逃してしまったからだ。今や私を阻むものは何もない。


 ……


 これ、おかしくない?なぜ誰一人として私に話しかけてこないの?私が可愛くないから?違う、それくらいの自覚はある。小さい頃から私に会った人は、可愛いと思わない人はいなかった。じゃあ、問題はどこにあるの?待って、もしかして私が可愛すぎて、彼らにプレッシャーを感じさせてるから?


 「あの、こんにちは」


 「ちっ、用?」


 「す、すみません、何でもありません」


 もう、これで七人目だよ。用がなければむやみに人に話しかけないでよ。私は今とても大事なことを考えているんだから。なぜ誰も話しかけてこないの?やっぱり私が可愛すぎるから?もう、結局は自分から動くしかないのか。


 どれどれ、誰が話しかけるのに適してるかな?あの女の子?ダメだ、今はもう誰かと話しているみたいだ。タイミングが良くない。こっちの男の子は、ちょっと間が抜けてる感じ。彼で練習するにはちょうど良さそう。


 「あの、すみません」


 「え?」


 突然の声に、再び思考を遮られた。もう、いい加減にしてよ。


 「何か用?」


 不機嫌な表情をできるだけ抑えて、平常心で返事をした。


 「そ、その、あなた、本当に可愛いなって思って。それで、話しかけてみたんです。その、よろしければ、私たちと友達になってくれませんか」


 落ち着け落ち着け、やっぱり私が友達一人作れないわけないだろ。どれどれ、この子はさっき誰かと話してた子みたいだ。そっちを見ると、数人の女子がこっちを心配そうに見ている。なんだ嘛、やっぱり私は超人気者嘛。


 「ああ、いいよ」


 興奮を必死に抑え、淡々と返事をした。こんな時に舞い上がっちゃダサいから、冷静でいなければ。でも、彼女の後ろにいる女子たちは安堵した様子。まあ、いいや。だって今、私は無事に友達ができたんだから。


 「あの、私の名前は平田朋美です。朋美って呼んでください」


 名前は朋美か、友達にぴったりな名前だね。そうだ、こんな時は自分の名前も言わなきゃ。


 「早奈千秋」


 「え?」


 「私の名前は早奈千秋です」


 「は、はい、覚えました」


 こうして、私は高校で初めての友達を作ることに成功した。朋美とはきっと楽しい高校三年間を過ごせると思う。もちろん、そんなことが起こるはずもないのだが、残念ながら、この時の私はまだそれに気づいていなかった。

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