第12話 嫌な前触れ
16日目。
攻略は順調だ。
上へ、上へと上がり続けている為、魔物も次第に弱くなっている。
たまにスキル『ドジっ娘』が発動してしまい、シス達が何もない所で転んでしまったり、分かり易い罠にメイドルが引っかかったりしてしまったり、目の前に居るのが魔物だという事に気付かず危うくイーナが襲われてしまいそうになったり、というハプニングが発生しているが概ね順調。
尚、イーナに襲い掛かろうとした魔物は念入りに殺しておいた。
「という訳で、恒例のガチャタイムだ!」
・爆裂鉱石
発掘してしまえば、即座に逃げろ。が鉄則な、ヤバイ鉱石。
些細な衝撃を加えるだけでも、半径数キロは焦土と化してしまう爆発力を兼ね備えている。鉱山の中に稀に含まれている為、希少な鉱石ではあるものの、爆裂鉱石をうっかり爆破させてしまい亡くなってしまう犠牲者が後を絶たない。
あ、これは不味い。
目の前に現れる爆裂鉱石。
見た目は普通の鉱石と変わらないが、中央部分には膨大なエネルギーが内包されているのが見て取れる。
空中に現れ、地面と接触する直前。
徹は慌ててキャッチする。
ギリギリセーフ。
もしも地面と接触していたら、その瞬間に爆裂鉱石は起爆してしまっていた事だろう。
「あ、あぶねー! セーフ! マジでセーフ! 俺の判断が少しでも遅れてたら、周囲一帯焦土になってもおかしくなかった。ナイス! 俺、マジでナイス!」
また、認識を改めなければいけないかもしれない。
ガチャから出て来る物は、自分にとって有用な物。或いは不要な物……だけではなく、自身を害するかもしれない物まで存在している。
引く際は注意しなければいけない。
(……まあ、それは良いとして、流石にアレは初見殺し過ぎるだろ! コレをガチャのラインナップに追加した奴は一体誰だ! 一度文句を言ってやりたいわ!)
17日目。
今日も攻略は順調。
しかし、違和感のような物を覚える。
大きな変化はない。
只、魔物の数が以前よりも少ない気がした。
階層によって、魔物の出現率が違うのでは? と言われれば黙るしか無いのだが、それでも魔物の数が少ない気がした。
「それじゃあ、ガチャを引くか」
・殺戮マシーン・デストロイ
より多くの生物を殺戮する為に生み出された兵器。しかし、システムに致命的なバグが存在していたのか、目に入るもの全てを殺戮せんと襲いかかってくる。
これはアカン。
昨日といい、今日といい、致命的に運が悪いのでは無かろうか?
出現した、殺戮マシーン・デストロイ。
脚部はキャタピラ。腕は無数のロボットアーム。
それぞれ強力な武器を所持している。
名前を体現したかのような見た目だ。
奴が動き出すよりも先に、「っしゃぁ! オラァ!」と叫びながら、徹がドロップキックを食らわせる。
全体重を乗せた一撃は、デストロイを転倒させる。
暫くは起き上がれないだろう。
「メイドル! シス! サード! イーナ! ヘルプ! マジで、ヘルプ!」
大声で叫び、仲間の助けを呼ぶ。
数秒後、皆は駆け付けてくれる。
「どうかしたんですか? ご主人さ……って、何か変なのがいる!?」
「カッコイイ」
「ご主人様、今度は一体、どんな変なのを当てちゃったの? もう、自分で引くんじゃなくて、私たちに任せておいた方が良いんじゃない?」
「!」
シスは驚きに目を見開き、メイドルはうっとりとした表情で眺め、サードは呆れた眼差しを徹へと向け、イーナはとても可愛らしい。
「五月蠅い! 今日はたまたま運が悪かっただけだ! それよりも皆! コイツを破壊するの、手伝ってくれ!」
先制攻撃を決めることが出来た為、デストロイは未だに動く事が出来ていない。
だが、奴の手には大量の武器が握られている。
戦いになったら負けるかもしれない。
その後、5人でデストロイを袋叩きにした。
中々頑丈で壊れなかったが、最終的には数の力でどうにかした。
尚、デストロイが装備していた武器の数々は、シス達が装備する事になった。かなり高性能である為、魔物を倒しやすくなった。
まさか、直接的に害そうとするアイテムまで現れてしまうとは。
スキル『ガチャ』は意外にも恐ろしいスキルなのかもしれない。
「いや、単純にご主人様の運が悪いだけだと思うけど」
シャラップ!
サードの指摘は、聞こえない振りをした。
18日目。
今日も攻略は順調。
未だに違和感は消えない。
しかし攻略は順調なのだから、気にしなくても問題はないだろう。
ガチャを引く。
「何か良いの来てくれ!」
爆裂鉱石や、殺戮マシーン・デストロイとかじゃ無ければなんでも良い。
・大魔導士の日記
読み解く事が出来れば、大魔導士が学んだ術式の数々を我が物とする事さえも出来る。
が、内容が難解すぎる為、理解出来る者は誰も存在しない。
現れるのは一冊の手帳。
かなり年季が入っており、表紙はボロボロ。ページにも、インクなどの汚れが目立つ。
中をパラパラと捲り、パタンと閉じる。
何も分からない。
小腹が空いた為、前にガチャで当てた納豆を食べる事にした。
食事は基本的に三食シスのカレーだ。
一応魔物や、鳥っぽい奴がいれば、ハンバーグやオムライスを作る事も出来るのだが、食べるのを躊躇ってしまう。
イーナは知ったこっちゃねぇ! とばかりに食べようとしていたが、徹が全力で止めた。本人は酷く不満そうにしていたが、お腹を壊されても困る。
美味しいといえば美味しいが、やっぱり同じメニューだと飽きてしまう。
贅沢な悩みとは分かっているが、たまには別の物が食べたくなってしまうのは人の性のようなものだ。
納豆の見た目はスーパーで売られている、3パックの奴。
そのうちの1つを取り、よく混ぜる。
箸はない為、銭湯からそれっぽい物を頂戴した。
いざ食べようとした時、メイドルが姿を現す。
「何を食べてるの? ご主人様」
「納豆。お前も食べるか?」
日本人にとっては慣れ親しんだ食べ物だが、嫌いな人は多い。
メイドルは顔を顰める事なく、コクリと頷く。
「美味しそう」と呟いている辺り、無理はしていないのだろう。
メイドルが納豆を頑張ってグルグルかき混ぜていると、今度はイーナが現れる。
「!」
彼女は納豆に興味津々だった。
食べてみるか? と、納豆を差し出して見ると、両手を上げて喜ぶ。
ここに、三人並んでただひたすら納豆をかき混ぜるという、訳の分からない状況が展開される事となった。
そんな光景を目にしたシスとサードの2人は顔を顰めていたが、よく混ぜた納豆は美味しかった。
19日。
今日のガチャ。
・画家「雨水 真心」の傑作品。風景画「水面」
画家である、雨水 真心が描いた風景画の一枚。水面に映る波紋や、朧げな風景が描かれており、見ていると自然と心が安らぐ。
抱いていた違和感。
アレは本物だった。
とある階層は、複雑に入り組んだ洞窟とは異なる。
開けた場所だった。
既視感。
巨大な魔物である、無慈悲なレッドノート。
奴と戦った時も、この様な場所だった。
しかし、中央に鎮座している筈の巨大な魔物――中ボス――は、何処にも存在しない。
あるのは凄惨と呼ぶに相応しい血痕と、中ボスの体の一部だったのだろう、気持ちの悪い触手が数本。
「……皆、行こう」
全員が愕然とする中、徹が先を行く。
何かが居る。
この迷宮には、きっとレッドノートなど比べ物にもならないような、とんでもない何かが。
それでも、足を止める事は出来ない。
徹達に出来ることは、進み続けることだけだから。
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