第9話 未来予測機械(笑)



12日目。


 迷宮攻略は今日も順調だ。


 最初はどうすれば良いのか分からず手をこまねいてしまっていたが、ここ数日を通して「何をすれば良いのか?」「どうすれば良いのか?」が何となく分かってきた為、動きが格段に良くなっている。


 対して、徹の方は特になにもない。

 皆が優秀である事は喜ばしいが、同時に貢献出来ていない自分自身に自己嫌悪してしまいそうになる。


「ご主人様! 姉さんがまた罠に引っかかりました! 助けて下さい!」


「メイドルの野郎! 今度は何に引っかかったんだ!」


「簡易的な罠です。こう、巨大な鉄の籠を丸太が支えてまして、その真下に金銀財宝が設置されてました。姉さんが金銀財宝を手に入れる為に足を踏み入れた瞬間、支えが外れてしまって鉄の籠がこう……ガバッ! といった感じで」


「……もしかして、アイツってかなり馬鹿だったりする?」


 分かり易い罠だ。

 寧ろ、余りにも分かり易過ぎて、引っかかる者など誰もいない筈なのに。


「ご主人様。幾らご主人様であっても、姉さんの悪口は言わないで下さい。ああ見えても姉さんは繊細なので、せめてアホまでです」


「基準が分からない。……って事は、4人で力を揃えて助けないといけないか」


 徹も含めた4人の力を合わせることによって、無事にメイドルを救出する。

 尚、当の本人は折角手に入れた財宝が偽物だった事に、少しだけがっかりしていた。 

 見え透いた罠に嵌まってしまった、という事実を悔い改めて欲しい。


 その他にも、大量の魔物に襲われそうになったり、如何にもな様相を呈した宝箱と出会ったり、といったイベントが発生しながらも、無事に上層へと続く階段を発見する。

 次第に、魔物の種類も変わっている。


 恐らくは区切りのようなものが存在しており、区切りごとに出現する魔物の種類が変わって来るのだろう。


 今日のガチャ!



・未来予測機


 文字通り、未来を予測することの出来る機械。膨大な数のスーパーコンピュータをギュッと圧縮して1つに纏める事によって、持ち運びが可能なお手頃サイズ。

 モニター部分である眼鏡を通して、数秒先の未来を見通す事が可能。



 現れたのは、高価そうな見た目をしたメガネ。

 しかし、その説明文を目にして驚愕してしまう。


「未来予測機械って……マジかよ」


 仮に本当だとすれば、とんでもないアイテムだ。

 具体的な使い方は思いつかないが、未来視などといった能力はかなり強い。


「つまり、このメガネをかける事によって俺も強キャラの一員になる事が出来る、という事なのか!」


 早速未来予測機を付けてみる。

 説明の通り、数秒先の未来をみる事は出来る。

 だが、イマイチ何が凄いのか分からない。


「あれ? ご主人様。メガネなんてかけて、どうかしたの? 幾ら知的になりたいからといって、格好だけそれっぽくしても難しいと思うよ」


「つまり、遠回しに俺の事を馬鹿だと言ってるのか?」


 偶然通りかかったサード。

 ニヤニヤと笑いつつ、徹のメガネ姿を弄ってくる。


 ツーサイドアップに結ばれた緑色の髪を揺らしながら、此方を馬鹿にしてくる姿はさながらメスガキ。

 されど、一々目くじらを立てるべきでもない。


「あ、そうだ。話は変わるんだけど、ちょっと俺に対して攻撃してみてくれないか?」


「へ?」


 目を丸くして、素の反応を見せるサード。


「えっと……その、ごめんなさい。ご主人様が、甚振られる事によって性的興奮を覚える方だったとしても、私は軽蔑したりする事はないんだけど……跡が残るまで痛めつけて欲しいって、なるとメイド仲間のリリーちゃんみたいな事は難しいかな、っていうか。そもそも、暴力とか苦手じゃないし」


「いや、そういう事じゃないから! 全然、そういう事じゃないから!」


 ガチャで入手した、未来観測機について説明する。


「成程。手に入れたアイテムの性能を試す為。……うん、分かった。それじゃあ、今から試してみるね?」


 タイミングは何時でも良いといって来たが、サードは即座に仕掛けてきた。

 未来観測機は、装着者の任意で発動する事が出来る。

 発動方法は念じるだけ。


 数秒先の未来を、徹は目にする事が「結構痛い! …………アレ?」

 チョップを食らうと同時に、徹は数秒先の未来を目にする。

 即ち、サードがチョップを仕掛けてくるという未来を。


「どうだったの? ご主人様。未来を見ることは出来たの?」


 見ることが出来たといえば出来た。

 しかし、これは欠陥品だ。

 何せ、未来を予測する過程で、既にその未来は過去に変わってしまうのだ。


「うん。これはガラクタ行きだな」


 未来を見る事が出来る、と聞いた時はテンションが滅茶苦茶上がったが、やっぱり現実はそこまで甘くないという事を思い知ったのだった。


13日目。


 襲い掛かる魔物の強さは種類によって異なる。

 単体で襲って来る魔物がいれば、徒党を組んで襲い掛かって来る魔物もいる。厄介なのは、仲間を呼ぶタイプの魔物。


 虫や鳥のように小さく、群れで動いて来るタイプもいる。

 とても厄介だ。

 厄介ではあるが、シス達がとても頼もしい。


 たまにスキル『ドジっ娘』が発動してしまう事があるが、残り2つのスキルを巧みに使う事によって、魔物を倒していく美少女メイド三姉妹。

 基、メイドル、シス、サードの3人。


 ホムンクルスという特殊な種族な上、『虚弱体質』という不穏なスキルを持っているにも関わらず、光線銃スターラインVer2.4を巧みに扱う事によって、正確な攻撃を仕掛けるイーナ。


 徹は完全なお荷物状態ではあるが、彼が引き当てたアイテムの中には戦力として使える物も存在している。


 それらをフルに使う事で、多少のハプニングに見舞われる事はあっても、迷宮の上へ上へと進んでいく事が出来る。

 だが、ここで大きな壁にぶち当たってしまう。


「随分と開けた場所ですね」


「天井に、巨大な……なんだろう。アレ」


「!」


 上層へと続く階段を上がった一行。

 多少様相が変わろうとも、洞窟である事には変わりがない。

 しかし、今回に至っては話が大きく異なっていた。


 迷路のように入り組んだ道ではない。

 広く、開けた場所。

 身を隠す為の物陰は少なく、中央に存在しているソレが途轍もない存在感を放っていた。


 それは巨大だった。人のような形をしているが、顔面を埋め尽くすのは大量の眼球。腕は合計で6本も存在しており、下半身は存在していない。

 天井に上半身を接続するかのように。或いは、宙ぶらりんの状態だ。


 血走った眼球たちは、せわしなく周囲の観察を行う。

 6本の手は全て以上に長く、かなりの距離届くだろう。


「よしっ。取り敢えず、作戦会議をしよう」


 幸いにも、徹達は階段から顔のみを出している状態。

 巨大な魔物に気付かれていない。


「あれ、無理じゃない?」


 いの一番に発言したのはサード。


「……まあ、うん。サードの言う通りだな。無理という訳ではないが、初見で倒すというのは難しいかもしれない」


「でも、だったらどうするんですか? 迷宮から出る為には、あそこを通り抜けるしかありません」


「分かってる。だから、今日は奴が何をするのか。その行動パターンだけでも、見ておきたいんだ。倒す必要はない。少しでも情報を得る事が出来れば、それで良い」


「ご主人様の言いたい事は分かった」


「……!」


 方針は決まり、徹達は即座に動く。

 その後、巨大な魔物がどんな行動を取るのか? どんな攻撃を仕掛けて来るのか? 何か、弱点は存在していないのか?


 観察を行う事で、ある程度理解する事が出来た。


「だけど、かなり強いな。これ、どうやったら攻略できるんだ?」


 なんとか逃げる事は出来たが、一歩間違えていたら命を落としていたかもしれない。

 巨大な魔物の脅威は幾つも存在している。


 1つは、複数の眼球から放たれるレーザービーム。射程は、奴がいる空間の端から端まで。しかも、眼球を同時に様々な方向に向ける事が可能である為、一度に複数箇所に攻撃を仕掛ける事が出来る。


 次に6本の腕。此方は、眼球に比べるとそこまで脅威ではないが、単純に破壊力が凄まじい。おまけに6本。2本だけでも膨大な破壊力を有しているにも関わらず、そんな物が6つも存在している。


 遠距離が駄目なら近接で、という甘い考えは捨てておいた方が良い。

 そして最後に、敵は奴1人ではないという点。


 初めて見た時は巨大な魔物1体のみだったが、気付けば複数体の魔物が出現していた。巨大な魔物を相手にするだけでも大変なのに、通常の魔物にも対処しなければいけない。

 きつい。きつ過ぎる。


 どれか1つをとっても厄介なのに、厄介な要素がてんこ盛りだ。


「だが、どうしようもできない、って訳じゃない」


 攻略するのは難しい。

 しかし、不可能ではない。


 問題があるとすれば、どのような方法であの巨大な魔物を倒すべきなのか?

 暫くの間考えて、あーでもない。こーでもない。と作戦を練る。


「そう言えば」


 徹はふと思い出す。

 スキル『ガチャ』を行使した際に発生した、とある現象を。

 同時に、閃く。


 勝利する為の秘策を。

 検証が必要だ。

 だが、もしも徹の考えている事が正解だとすれば。


「……これでアイツを倒す事が出来るかもしれない」

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