死ねない男
閒中
死ねない男
私の人生?
そんなもの、人様に聞かせられる程のもんじゃあありませんよ。
まぁお互い何も喋らないのもアレですし、退屈凌ぎにでも聞いてやってください。
昔ギャンブルにハマってしまいましてね、仕事もしないもんだから女房が子ども連れて家を出て行ってしまいました。
そんな中、競馬と宝くじで大当たり。
一生分の大金が舞い込みました。
いやぁあの時は嬉しかったなぁ。
欲しい物は全部買いました。
食べたい物は全部食べました。
行きたい所は全部行きました。
抱きたい女は全員抱きました。
憎い奴は全員殺しました。
使っても使っても金は沢山あったので、それが当たり前になってしまったんです。
そんなある日、所謂“神様”が私の前に現れましてね、一つだけ願いを叶えるって言うんです。
私は即座に不老不死と応えました。
金はあって当たり前でしたから、それが永遠に続けばと思っていたのです。
あの時女房と子どもにまた会いたい、とでも言えばきっと良かったんですけどね。
私、不老不死なんですよ。
冗談だと思うでしょう?
辛くて首を括っても死ねませんでした。
崖から落ちても無傷でした。
海に飛び込んでも窒息しませんでした。
身体に火を付けても燃えたのは服だけでした。
辛いでしょう?
でも不老不死でもお腹は減るし、一生分の大金も不老不死になったらいつかは尽きる。
やりたい事はやり尽くしたし、もう欲なんてありません。
女房も子どももとっくに死にました。
いや、もう孫かひ孫も死んだか。
だから私は毎日あの時選んだ選択を後悔しながら、今貴方の靴を磨いて日銭を稼いでるって訳です。
生きる為じゃない、お腹が減るからです。
家なんていりません、新しい服なんて欲しくありません。
ただ毎日お腹が減るのでそれを満たせれば良いのです。
早く終われ、いつか終われとこの人生を呪いながら。
はい、靴綺麗になりましたよ。
今の話、嘘だと思いますか?
でも何だか貴方には聞いて欲しかったんです。
貴方は私が出逢った“神様”に少し似てたから。
この男の恨みのような、懺悔のような話を聞いた私はこの靴磨きの男に短く礼を良い、今日の飯代になるであろう金を渡しゆっくり去って行った。
あの日あの時、男が欲しがり望むものを与えてやったのに、ちっとも幸せそうじゃない事を少し不思議に思いながら。
〈終〉
死ねない男 閒中 @_manaka_
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