コンビニ☆エスケープ!

ロザリオ

不良とありえない自動ドア

 自動ドア。

 人の存在を感知して自動でドアが開くそれ。

 1970年代に普及しはじめたそれは、20XX年現在でも良く知られているわけだが――、


「ねえ、このドア近づいたら閉まるんだけど」

「はあ?」


 ――それと真逆の自動ドアがここにあった。

 

* 

 

 ところは深夜の無人コンビニ。

 店内には不良と呼ぶには少し惜しい、有り体に言えばチャラい格好の青年――金髪と黒髪――がふたり。

 彼らは今しがた手に取ったインスタント食品をビニール袋に入れて、帰ろうとしていたところだった。


「……意味わかんねぇんだけど」


 あとからレジを抜けてきた黒髪は、立ちつくしている金髪を無気力な横目で流し見ながら出口へ向かう。

 

 ……うぃーん。カシャン。


「マジだわ」

「マジでしょ」


 冗談ではなかった。

 目算で1メートル、いや1.5メートルまで近づいた瞬間、2枚のガラス戸がスライドして進路を塞ぎにきた。

 よく考えれば、近づくまで開きっぱなしになっていた時点でこの自動ドアは様子がおかしかった。


「こんなの見たことある?」

「ねえだろ普通」

「だよね」

「誤作動か?」

「もしくは設計ミス」

「まあどっちにしろ開かなきゃ意味ねぇか」

「だね」


 だがふたりは電気技師でもなければ、まして自動ドアの仕組みを知っているわけでもない。

 自動ドアは近づけば勝手に開くものだ。

 それしか知らないし、それ以外も知らない。


「ガラスだよな。ぶち割るか?」

「まー最後の手段かな。警察に説明すんの面倒だし」

「それは言えてる」


 なので、まずは平和的な攻略法を考えることにした。


「そもそも自動ドアって何に反応してんだ」

「人の動きじゃない?」

「ならめっちゃゆっくり動けばバレないんじゃねえの」

「かもしれない」


 だが、言うは易しとはまさにこのことだった。

 牛や亀もかくやのスピードで歩いてみたが、やはり自動ドアは正確無比に作動した。

 半世紀以上も使われ続けるオールドテクノロジーは伊達じゃない。


 ならば、と今度はナメクジも痺れを切らすような緩慢な動きでじわじわと近づいてみる。


 ……うぃーん。かっしゃん。


「もういい割ってやる」

「まてまて待って」


 ガラスを破らんと飛び出した黒髪を寸前で金髪が抱き留めた。

 なんとか矛を収めさせたがこれでは拉致が開かない。

 そんな時、金髪の脳裏に天啓が降りてきた。

 

「逆にめっちゃ早く動けば勝てんじゃない?」

「なにに」

「自動ドアに」


 勝ち負けの問題なのかどうかはさて置き、それは妙案だった。

 問題はどちらが試すか。失敗すれば確実に痛い。


「おまえ50mタイム何秒?」

「3.22」

「負けた。俺3.25」

「じゃあ僕が走りますよ、っと」


 コンマ0.03の差で突貫するのは金髪に決まった。

 本当は助走を付けたいところだが、ここは狭い。

 センサーが反応しないギリギリまで近づいて、クラウチングスタートの姿勢を取り、ふくらはぎのターボエンジンを起動させた。

 

「あ、コレ持ってて」

「おう」

  

 ビニール袋を手に持ったままだった。

 黒髪に預けて改めてスタートの態勢を取る。

 

「よーい、ドン」

 

 ――ズバァァァンッッ!!!


 戦闘機さながらの衝撃波を残し、金髪は飛び去った。

 店内の床が抉れ店の商品が散乱しているが、そんなことは今はどうでもいい。

 金髪は見事脱出に成功していた。


「マジでいけんじゃん」


 自動ドアは動いた気配すらなかった。

 このくらいの速さになるとセンサーの反応が追いつかなくなるのか。


「なら俺も行くか」


 店の外では金髪がタバコを吸ってチルしている。

 コンマ0.03の違いなら同じ結果になるだろう。

 黒髪はスタンディングスタートの姿勢で位置についた。


「……ビニール袋邪魔だな」


 金髪から預かったせいで両手が塞がっている。

 重くは無いがカサカサ音が鳴るので気が散る。

 先にそちらを店の外に投げ出しておくことにした。


 うぃーん、カシャン。


「ちっ……」


 自動ドアに阻まれて、落ちたビニール袋から商品が転がり出す。

 こんなことなら投げなきゃ良かった。

 後悔しながら、まずは空のビニール袋を拾うべくドアの前に立つと、


 ――ウィーン。パンポーン。


 自動ドアが開き、お行儀よく入店音が鳴った。


「これ万引き防止だったのか」


 あとで商品をちゃんとレジに通したら普通に出れた。

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