第6話:お兄さん買いましたか?

 駅前を歩いていると、必ずあのおばあさんがいた。


 地元では「石くり婆」と呼ばれていた独り身の老婆で、普段は河川敷で意味なく石を拾っているという。


 そのおばあさんは、いつも駅前に立って人に声をかける。


「……お兄さん、買いましたか?」


 僕は意味も分からず「いいえ」と答えた。


 するとおばあさんは残念そうに首を振り、「そうですか……」とつぶやいた。


 後ろにいた友人も同じように声をかけられ、気味が悪くて「なんですか?」と問い返した。


 おばあさんはにっこり笑って、「結構です」とだけ言った。


 さらにあとから来たサラリーマンは、何も言わずに通り過ぎた。


 その直後、電車が止まり、僕たちは学校に遅刻した。


 いつもそうだった。いつも、いつも。


 ――本当に、いい加減にしてほしかった。


 けれど今は、もうあのおばあさんはいない。

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