人面瘡

ドン・ブレイザー

人面瘡

 ある日、俺の身体に人面瘡が現れた。突然、腹に人間のような顔が浮かんだのだ。原因はわからなかったが、俺には家族がいないので暇つぶしに人面瘡と共に生活をすることにした。


 まず、人面瘡に飯を与えてみた。手作りのおにぎりを人面瘡の口に持っていくと食いつき、むしゃむしゃとそしゃくした。なるほど、食べ物は普通の人間と同じらしい。俺は人面瘡と一緒に毎日食事をすることになった。


 一緒にテレビも見てみる。バライティ番組を見て俺が笑うと、人面瘡も一緒に笑っている。テレビの趣味は合うようだ。俺たちは毎日一緒にテレビを見るようになった。


 そんな風に一緒に暮らしていると、人面瘡が喋れるようになった。俺は人面瘡と毎日楽しくおしゃべりした。


「あなたとお話しできるようになって、わたし嬉しい」


「俺も君と話せてうれしいよ。毎日がとても楽しくなった。ありがとう」



 会話の中で気がついたことだが、どうやらこの人面瘡は女性だったらしい。その頃から人面瘡の顔つきも、だんだんはっきりと女性らしくなってきた。


 そして月日が流れ、俺は人面瘡に言う。


「君のことが好きだ。たのむ、俺と結婚してくれないか?」


「わたしも好きよ。結婚しましょう。わたし、幸せよ。いつまでも一緒にいましょうね」


 俺の一世一代の告白に、人面瘡は答えてくれ、2人は結婚することになった。俺たちは幸せの絶頂にいた。


 しかし、俺と彼女は人間と人面瘡だ。世間では許されることのない禁断の関係。他人に知られるわけにもいかないので、正式に婚姻届を出すことはできない。でも、せめて結婚式だけでもしようと思って教会を貸し切り、2人だけの式を挙げた。


 牧師がいないので、うろ覚えで式をこなし、最後に誓いのキスをするところまできた。


 しかし、俺たちはそこでとんでもないことに気がついてしまった。そう、俺たちはどうやってもキスをすることができないのだ。


「諦めない! 絶対にキスをしてやる!」


 俺は懸命に背中を丸めて顔を腹に持っていく。


「あ……」


 無理に背中を曲げたことで背骨がへし折れ、俺は教会の床に倒れる。どうやら俺は死ぬようだ。きっと人面瘡も一緒に。


 2人はどちらからともなく「愛している」とつぶやき、そのまま運命を共にした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

人面瘡 ドン・ブレイザー @dbg102

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ