第31話 魔王の思い

 お城の庭に戻ると、ミレアスさんがお墓を作っていた。

 ハルさんの遺骨を埋め、しゃがんで手を合わせている。


 私もそっと隣にしゃがみ、手を合わせた。

 近くにいたマルブさんもつられるように手を合わせる。


「こんな形になってしまったけど、魔王城ここを気に入ってくれるかしら」

「ハルさんは、魔王城で暮らすためではなく、ミレアスさんと魔王様を会わせたかったから魔王城へ行こうと言ったのだと思います」

「私とジルを? どうして?」

「ミレアスさんに、これからの長い人生を幸せに生きて欲しいと思ったからですよ」


 住んでいた町でひどい扱いを受けるようになり、新しい場所を求めても受け入れられはしない。

 命わずかなハルさんができることは、ミレアスさんのこれからの居場所を探すことだったのだと思う。

 

 ハルさんは、魔王討伐のあと魔王様のことを気にしているようだった。

 きっと、戦いを通して魔王様の性格に気付いたのだと思う。

 魔人であるミレアスさんを大切にしてくれるだろうと。


「ハルは、私といて幸せだったのかしら。本当は元の世界に帰りたかったのかもしれない」

「帰りたかったのかはわかりませんが、大切な人と最後を迎えらえて幸せだったはずです」


 これまでの勇者たちが、どんな最後を迎えたのかはわからない。

 でも、全員が無事に魔王討伐を成し遂げ、それぞれの人生を全うしたのだと思う。


「ハル、私は今幸せよ。魔王城に行こうと言ってくれてありがとう」


 ミレアスさんはとても優しい表情をしていた。


 魔王様は立ったままお墓を見つめている。


「俺がはじめに目覚めてすぐに魔法陣を壊していれば、大勢の勇者たちが犠牲になることもなかったのだろうな」


 いきなり異世界に召喚され、否応なく魔王討伐をさせられる。

 魔王様は、それを犠牲だと感じていたんだ。

 でも、目覚めたときにはすでに教会が建っていたと言っていたし、多くの人に危害を加えることを避けたかったんだろうな。


「どうして魔王様は封印され続けていたのですか? 本当は、勇者に勝てたのではないですか?」

「そうかもしれんな。でも、簡単なことではない。これ以上激しい戦闘を続けるより封印されてしまった方がいいと判断していた。それといつか、ヤツがなぜ俺を封印しようとしていたかわかるかもしれないと思った」


 ヤツとは友人の魔法使いのことだろう。

 やっぱり、どうして封印するようなことをしたのか魔王様も知りたいと思っていたんだ。


 そういえば魔王様は元々魔王ではなかった。

 ミレアスさんやマルブさんはジルとかジル様って呼んでいるし、魔王様って呼ぶのは失礼かな。


「あの、ジルザール様って呼んだ方がいいですか?」

「もう何千年も魔王として生きてきた。それに闇の魔力を持つ魔人は俺だけだ。魔王になる宿命だったのだ。それに、ユリに魔王様と呼ばれるのは悪くないと思っている」


 案外、魔王という立場を気に入っているのだろうか。

 それならいいか。


「みなさん、お腹減っていませんか?」

「減った!」


 手を上げ元気に返事をしたのはマルブさんだった。

 そんな様子を見て、魔王様もミレアスさんも穏やかに微笑む。


「ご飯、食べましょうか」


 最後に買い物に行ってからバタバタしていて、ほとんど食材がなかった残り物の野菜と保存していた魔物の肉でポトフを作った。

 大した料理ではないけど、みんなで食べるご飯は本当に美味しい。

 大きな問題が一段落したというのもあるかもしれない。


「そういえば、あの神官長はどうなったの?」

「王子に引き渡したが、どうなったかは知らない」

「まあ、あとのことは人間たちでどうにかするわね」

「あいつほんとうるさかったよね」


 あまり興味はなさそうに食事を続ける三人。

 国内のことはアンドレア王子がなんとかする。

 私たちは、これからもここで暮らしていいく。


 掃除をして、洗濯をして、ご飯を作って、街へ買い物に行って、時々便利な魔法を教えてもらったり……


「そうだ魔王様、約束覚えていますか?」

「ああ、覚えている」

「約束? なんの約束したんだ?」


 マルブさんが興味津々だ。

 ピクニックに行ったとき、マルブさんはいなかったからなんのことかわかっていない。

 四人でお出かけしたら楽しいだろうな。


 魔王様、どこにつれて行ってくれるんだろう。

 

「飯も、持っていくんだろう?」

「もちろんです。ご要望があれば言ってくださいね」

「楽しみね。どこに連れて行ってくれるの?」

「なあ、なんの約束なんだって」


 この場所に自然に溶け込んでいる自分がなんだか不思議だ。

 でもそれがすごく嬉しい。

 

「ユリ、」

「はい、なんでしょう?」

「以前食べたお好み焼きというやつが食べたい」

「お任せください!」


 

 ◇ ◇ ◇


 数日後、アンドレア王子とロバートさんが魔王城を訪ねてきた。


 ちょうど庭で洗濯物を干している時で、血まみれの二人が現れびっくりした。


「お二人とも、たくさん血がついていますが大丈夫ですか?」

「魔物の返り血を浴びただけでどこも怪我はしていない」

「大きさはありますが、特別強いとうわけではありませんでしたね」


 アンドレア王子もロバートさんも相当な強者だな。


「あの、着替えとかいりますか? たぶん着られるものがあると思います」


 私が着ているワンピースもここにあったものを借りているし、男性用の服もあるはず。

 けれど、二人は首を横に振る。


「どうせ帰りも汚すだろうからこのままで構わない」


 帰りも魔物と戦いながら戻るんだ。

 もう魔王と戦う必要はないのに鍛錬を怠らないんだな。


 かく言う魔王様も、庭でマルブさんと特訓を続いているんだけど。

 

 私は洗濯物を置いて魔王様と、二人を広間へと案内した。

 今回はミレアスさんとマルブさんも同席している。


 血まみれの二人を前にして、なんだか奇妙な光景だけど、雰囲気は穏やかだ。


「先日は、ありがとう。ラカス神官長は禁術を使ったことによる国家反逆罪で捕らえ神官長の位ははく奪された。教会は国家管理の下、あるべき姿に立て直すために現在働きかけているところだ」


 収まるところに収まっていっているようだ。

 でも、一つ懸念がある。


「あの私、教会の建をけっこう壊してしまったんですけど……」

「心配いらない。元々、建物自体を建て直すつもりでいたからどうせ全て崩してしまう」

「それなら良かったです」


 器物損壊罪に問われることもなさそうだ。

 ホッとしていると、アンドレア王子が真剣な表情になる。


「他になにか言いたいことがあるのだろう」


 魔王様が何か気付いたようだった。

 王子はシュッと背筋を伸ばし、頷いた。


「実は、相談があるんだ」

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