第24話 変化
自分が勇者だとわかってからも、生活に特に大きな変化はなかった。
魔王様とマルブさんは相変わらず特訓を続けているし、私も家事の合間に混ぜてもらっている。
ミレアスさんはお城でのんびり過ごしているし、なんだか平和だ。
それでも、少しだけ変わったことがある。
私はミレアスさんの部屋をノックし、返事を確認してから中へ入る。
「今日も街へ買い物に行こうと思うのですが、いつものお願いしてもいいですか?」
「もちろんよ。こっち座って」
「ありがとうございます」
ミレアスさんに促され、ドレッサーの椅子に座る。
あれから、神官たちに見つからないように、買い物に出かけるときは変装をするようにしている。
以前魔王様が、仲間は姿を偽って街へ出かけていたと言っていたのでどうやっていたのか聞いてみた。
するとミレアスさんが、良い道具があるからと貸してくれることになった。
髪を櫛で梳かしてもらい、それから後頭部の高い位置でポニーテールに結んでくれる。
「今日はどれにしましょうか……」
引き出しの中を物色し、持ってきたのは大きな赤色のリボン。
そのリボンを頭に着けてもらうと、髪の色がみるみると赤く変化していく。
これは、着けると髪の色が変わるというヘアアクセサリーの魔道具らしい。
昔こういった魔道具が流行った時代があり、ミレアスさんも集めていたそうだ。
「すごい……でも、こんなに真っ赤な髪色、目立ちませんか?」
「この世界では赤髪なんて珍しくないから大丈夫よ。それに良く似合ってる」
見慣れないせいか似合っているかはわからないけれど、誰も私だとは気付かないだろう。
髪色に合わせた淡いピンクのワンピースも貸してもらい、変装が完成した。
そしてミレアスさんもブルーのカクテルハットを頭に着ける。
ヴァイオレットの髪色が青く染まった。
「じゃあ、行きましょうか」
「はい。よろしくお願いします」
一人で行くのは危険だからと、ミレアスさんが一緒に行ってくれることになっている。
はじめは魔王様が一緒に行くと言い出したけれど、もし神官に見つかったり正体がバレたときに大きな騒ぎになるのは避けられない。
人間には危害を加えないというアンドレア王子との約束も守れなくなる可能性がある。
それもあって、魔王様には留守番しておいてもらうことになった。
転移魔法で丘まで移動し、街へと下りていく。
今日は、野菜と卵を買って帰りたいと思っている。
もう慣れた道を歩き、いつものお店へと向かう。
相変わらずたくさんの人で賑わっているし、この街に馴染んできている自分がなんだか嬉しい。
するとミレアスさんが青果店の前で足を止めた。
「ねえねえユリ、あれ食べない?」
指さしたのは、マムアンを一口サイズにカットして串に刺したものだった。
濃いオレンジ色の熟した果実から今にも果汁が滴り落ちそうで目を奪われる。
「美味しそうですね。 食べたいです!」
私たちはマムアンの串を一本ずつ買って、近くのベンチに座って食べることにした。
よく熟したマムアンは甘くてトロトロで見た目以上に美味しい。
「マムアンなんて久しぶりに食べたわ。やっぱり美味しいわね」
「魔王様とマルブさんにも買って帰りたいです」
いつも食事の材料ばかり買っていたので、こういったデザートもあればいいかも。
魔王様、甘いもの好きかな。
もし好きだったらカットフルーツだけじゃなくて、フルーツのたくさんの乗ったパンケーキとかプリンとか作ってもてもいいかもな。
ミレアスさんと買い物に来るようになって新しい発見があって嬉しい。
マムアンを食べ終え街を歩いていると、ふと街灯に張られているチラシが目に入った。
よく見渡すと、それは至る所に張られていて、足を止めて見ている人もいる。
数日前に来た時はまだあんなチラシはなかったはず。
気になったので私たちも近くへ行って見てみることに。
「ミレアスさん、これ……」
「いったいどういうことかしら」
そこには驚くべきことが書かれてあった。
『勇者と共に魔王討伐に行くパーティーメンバー募集。採用試験あり』
チラシ元は教会だった。
見ている人たちは教会は信用できないと言っていたり、高額な報奨金に参加してみようかと言っている人もいる。
それにしてもどういうことだろう。
勇者召喚は一世に一人しかできないと言っていた。
私がいる以上、勇者は現れないはずなのに。
「私を探しているわけではないですよね?」
「いろいろな可能性が考えられるわね。ユリを探して連れ戻そうとしているのか、異世界から召喚された勇者ではなくこの世界の誰かを勇者として立てようとしているのか……」
そういうパターンもあるのか。
たしかにこの世界にも強い人はたくさんいる。
魔王様を倒す人物が“勇者”なのであれば、私じゃなくてもいんだ。
わかったことは、教会は魔王討伐を諦めていないということ。
教会の問題はアンドレア王子が解決すると言っていたけど、討伐についてはどうするつもりなんだろう。
やはり、人間との戦いは避けられないのだろうか……。
「ユリ、今すぐどうこうなるわけではないしジルなら大丈夫よ。ただの人間に負けるわけないから」
不安な気持ちを察したのか、ミレアスさんは優しく私の頭に手を乗せる。
「そうですね。私も、もしもの時は戦います」
気になることはたくさんあるけれど、とりあえず今は買い物をして帰って美味しいご飯を作ろう。
私たちはまた街を歩き出した。
ミレアスさんと何を買おうか相談しながら、たくさんあるお店を見て回る。
その中でも今日入荷したという採れたて新鮮で旬の野菜をいくつか買った。
あとは卵と、はじめに食べたマムアンを買って帰ろうと話していると、ミレアスさんが突然足を止めた。どうしたのかと私も足を止める。
そして険しい表情になった後、私の手を取り目的のお店とは違う方へスタスタと歩いていく。
「ミレアスさん?」
私はわけもわからず付いていった。
心なしか、空気が張り詰めているように見える。
しばらく歩いて人通りの少ない路地に曲がるとまた足を止め、くるっと後ろを振り返った。
「さっきから私たちをつけてるようだけど、なんのご用意かしら」
え? つけられてたの?
急いで振り返った先には、アンドレア王子がいた。
「いや……えっと僕は……」
突然声をかけたので少し焦っているようだった。
もしかして私だと気付いていない?
気付かずに後をつけていたのかな?
ミレアスさんは王子がお城に来た時に顔を合わせていないし、不審人物だと思っているかも。
「あの、アンドレア王子。私ユリです」
「ああやっぱり! 姿が変わっているし、見たことのない女性と一緒だから自信がなかったんだ」
「逆によく気付きましたね」
「髪型と色が変わっていても、表情は可愛らしいユリのままだったから」
王子は安堵したように微笑む。
「あなたがアンドレア王子? 案外キザな王子なのね」
「この方はミレアスさんです。魔王城で一緒に暮らしています」
「はじめまして。アンドレアです」
王子は爽やかな笑顔で挨拶をする。
ミレアスさんも先ほどの張り詰めた空気はもう纏っていない。
「それより、どうして私たちをつけていたのですか?」
「ユリ、街のチラシを見たか?」
「勇者パーティー募集のことですか?」
「ああ。最近、教会が不可解な動きをしているんだ。今詳しいことを探っているんだが、そちらに報告しておこうと思っていたところ、ちょうどユリらしい人物を見かけたから声をかけようか迷っていたんだ」
「そうだったのですね。それで、教会の不可解な動きとは?」
アンドレア王子は辺りを見回すと、首を横に振る。
「ここではゆっくり話せないから、よかったら王宮にきてくれないか」
「今からですか? こんな突然訪問しても良いのですか?」
「もちろんだ。いつでも歓迎すると言っただろう」
そして私とミレアスさんは急遽王宮へと行くことになった。
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