放っておかれた目玉クリップ

えむえぬ

放っておかれた目玉クリップ

 引き出しの奥に放っておかれた目玉クリップは三つあった。

 ひとつは引き出しの隙間からわずかに漏れる光の恩恵を受けられる位置にいる赤色の目玉クリップ。

 もうひとつは、手前にある赤色の目玉クリップが邪魔になって光の恩恵を受けられない位置にいる青色の目玉クリップ。

 そして最後のひとつは、引き出しの最も奥まった位置にいて、真っ暗な闇を見つめることしかできない銀色の目玉クリップ。

 三つの目玉クリップのうち、赤と青は光をめぐって喧嘩ばかりしていた。

 赤色の目玉クリップは自分にだけわずかでも光が当たることを自慢し、青色の目玉クリップはそんな赤色の目玉クリップを憎んでばかりいた。

 その醜い心が反映されたように、二つの目玉クリップの表面は錆びついていた。

 銀色の目玉クリップは最も奥まった位置にいたが、意外にも希望を捨ててはいなかった。

 そのくじけない心が功を奏したのか、銀色の目玉クリップの表面は錆びつかずにツルツルしていて、闇の中でなければ、銀色に光り輝くはずだった。

 あるとき、突然バッと引き出しが開けられた。

 放っておかれた目玉クリップたちは、これで外に出られると大喜び。

 ところが、引き出しを開けた娘さんが手に取ったのは、引き出しの最も奥にいた銀色の目玉クリップだけだった。 

「この目玉クリップがいちばん綺麗ね」

 そうつぶやくと、娘さんは銀色の目玉クリップを連れて引き出しを閉めて行ってしまった。

 取り残された赤色と青色の目玉クリップが再び喧嘩を始めたのか、銀色のクリップに倣って心を磨いたのかは想像に任せるとしよう。

 ただ、娘さんに選ばれた銀色のクリップは、紙の束を留める仕事をして幸せに暮らしているという。

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放っておかれた目玉クリップ えむえぬ @emuenu73

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