効率
長万部 三郎太
デートの主導権
「待ち時間もデートのうち」
平成にはこのようなポジティブな考えを持つ男がいたというが、時代は変わり何かと『タイパ』が取り沙汰されるようになり、そういった男子諸君は死滅してしまった。
一方で待ち合わせの時間にわざと遅れてやって来て、デートの主導権……つまり、この場を仕切っているのはワタシであってアンタではないと、強気な姿勢を見せつける女性たちが増えてきたのも確かだ。
ある日、渋谷のモヤイ像前で待ち合わせをしていたカップルがいた。
厄介なことに、男の方は数年前の転勤で都内を離れたこともあって、モヤイ像が移設されていたことを知らずに駅横のいつもの場所で彼女を待っていたのだ。
彼女はというと、何故駅から離れたモヤイ像を指定してきたのか理解できず、面倒くささも相まって駅に隣接した喫煙所に向かっていた。
焦れた男から連絡があるまでタバコでも吸って時間を潰そうと思ったのだ。
奇しくもこの喫煙所、旧モヤイ像の近くにあった。勘違いしていた男と計算高い彼女は、偶然にも時間ピッタリに鉢合わせることとなる。
「やあ。ちょうど今来たところだったよ」
「あ、ワタシも……」
時間に正確すぎて、必死すぎると思われたかもしれない。このままではペース配分はおろかデートの主導権まで奪われてしまう。そう危機感を覚えた女は、陸橋を登ろうと手を取ってきた男を振りほどいてこう言った。
「タバコ、1本吸っていくからちょっとそこで待ってて」
その発言に男が意見する。
「1本ずつ吸うのはタイパが悪いから、ひと箱全部吸い尽くしてから行こうよ」
(健康寿命すらタイパ主義シリーズ「効率」おわり)
効率 長万部 三郎太 @Myslee_Noface
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