第4話 外に出るのが怖い
私の疑問が解き明かされ、いろんな事が見えて来るに従って、 私は世間とのギャ
ップに悩むばかりだった。
そんな日々を送っているうちに、徐々に体重が減って、身体は痩せ細っていってい
た。
久しぶりに会う人ごとに「どうしたの?くる実ちゃん痩せたんじゃない」と、言わ
れてばかりいた。
「そうぉ、今は仕事も控えて何もしないで、家に居るのに…おかしいな?」と応え
ていた。
なかには「くる実ちゃん、苦労してるんじゃない。杉山さんと一緒に居て、いろい
ろ嫌な事、多いんじゃない…」と訊いて来る人も多い。
その言葉の奥に<杉山さん再婚でしょう。それに、歳も離れているし、話も合わな
いんじゃない>云う意味あいが隠れさているのが手に取るように解かる。
<最近、私たちとの付き合い悪くなったのは、杉山さんがきつくって、外に出して
貰えなんでしょ可哀相に・・・>と云う意味も含まれていたりする。
まったく違った。
「いや、耕二さんは別に、外に出ても何も言わない人よ。私がね。外に出ると、後、家に帰ったら片付けが大変だから…」と言っている。
それでも、その人達は、どうも納得していないようだった。
単に私が強がりで言っているように解釈しているのが解った。
でも、敢えて弁解はしない。
「可笑しいね。みんな、余程、耕二さんが酷いみたいに思ってるよ…」と耕二さん
に言って笑いあっていた。
「こんなに、話を訊いてくれる人居ないのにね…人って、変ねぇ~」と言ってい
た。
「それでも、くる実、家に居て、家の用事ばっかりして、考え込んでばかりいたっ
て、どうにもならないよ。たまには外で、仕事をしたら…」と耕二さん。
「でも、私が、家に居なかったら、耕二さんどうするの?大変よ」
「どうにかなるよ、仕事があれば、すればいい。外に出たら、又気分転換になるか
も知れないよ、家に居て、考えてばかりしていても何も解決出来ないからな」
「外に出たら、又、嫌な事一杯あるわ」
「そんな事は、仕方ないだろう?毎日、家に居たら、頭が馬鹿になるぞ」と耕二さ
ん。
そうだった。私は、馬鹿になるかもしれないと云う不安が大きかった。
私は、生きている限り、馬鹿になる事が一番怖かった。
単純だけど、耕二さんの「馬鹿になるぞ」の一言で又、外に出る決心をした。
たまに外に出れば、違う考え方が出来るようになるかも知れないと云う期待を持
って、フリーランスとして 2,3のラジオCMコピー制作の他に観光ガイド2ページだ
け担当する仕事を引き受けた。
しかし、取材に出かける以外は、ひたすら家に居た。
人に会うと、やっぱり疲れた。
取材で出掛けた後、一週間くらい外に出る元気がなくなる程疲れた。
外に出るたび疑問が増え、そして同時に、家を空けると、家事が2倍、3倍になって
襲って来た。
「散らかってても気にするなよ。放っておけばいい」と耕二さんは言ってくれる。
でも、私は放っとけなかった。
スイッチ一つで頭の思考回路が切り替わったら、どれだけ楽だろうと頭を切り開い
てみたくなる時がある。
どうして、みんな簡単に何でも、当たり前のように行動出来ちゃうのだろう?
どうして、いろんな出来事に対して不思議に思わないんだろう?
そんな事ばっかり頭に浮かんで来る。
それが、年々、歳を追う毎に激しくなって来ているようだった。
子供の頃は、まだ周りの皆が同じような疑問を持っていたから、それ程でもなかったのに、付き合うのが大人が多くなったせいかもしれない。
最近では、身軽に逞しく生きている人を見ると、その人達が羨ましく思える反面、何故か獰猛な獣のように見えて来るようになって来ていた。
そう思うと大変だった。
その人達が襲って来るような脅迫観念に捕らわれてしまうからだ。
こんなのだから、私は時々、日常から逃げ出したくなる。
でも、逃げ出す場所がない。逃げ出すエネルギーもない。
結局、疲れが内向したら、二、三日寝込んでしまうと云う生活の繰り返しが、何年も続いている。
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