恋する人と愛する人

森田さとみ

第1話 日常

午前10時過ぎ、


南向きのベランダから差し込む陽の光が眩しい。


「くる実、来てごらんよ。いい天気だよ」と夫の耕二さん。

「そう」と気のない返事をする私。

「あーぁ、くる実は、こんな天気は嫌いだったんだよな。可哀相だけど、今日は嫌い

な晴れだよ」


 こんな朝は、痩せた身体がひどく重く感じる。

 知り合って20年。

 一緒に暮らして18年になった今、私の晴れの日嫌いを気づかって言い直してくれ

る。

 夫、杉山耕二 60才(再婚) 私、杉山くる実 43才


 朝、昼兼用の食事の準備。食器の後片付け。

 夫・耕二の仕事の電話を取次ぎながら、掃除、洗濯、風呂場にトイレ掃除。 

 3時には軽い食事を作る。

 作・編曲家の夫と呼ばれる存在の人は、一日中家で仕事している。


 お酒の飲めない体質の夫の耕二は、外に出ると云う事を余り好まない。

 打合せも家で行う。夜は家に居て夜中まで仕事をする。

 昼間、外出するのは月に2、3度くらい。飲みに出かけるなんて事は滅多にない。


 友達や、仕事の仲間も家に呼ぶ。

 家と仕事場が一緒になっているので、私は大変だ。

 おまけに、まったく、整理整頓能力ゼロの人で、

 「あ~、もう、今、掃除機かけた所なのに…」

 「いいじゃないか、どうせ散らかるんだから、又、掃除すればいい」と耕二さん。


 「仕事場のモノはリビングには持って来ないって、約束したじゃない」

 「もぉ~っ、又、こんなモノ食卓のテーブル上に置きっ放し、あぁ、厭!」

 ハサミでも、ペンでも、書きかけの楽譜やメモ書きの紙でも、どこにでも置く。


 「モノを考えてる人間に、そんなコトまで強制するなよ」と耕二さん。

 「それは分かってるけど…突然アイディアが湧いて、音符が出て来たら、直ぐに書

いとかないと忘れるやろ…」

 「それは、分かるけど、あちこちに、ちょろっと書いた楽譜があったら、私、分か

らないでしょう、薬まで、紙の間から出て来たり…もう、片付けへん!うちは余所よそよりお客さんが多いんだし、散らかしちゃ厭だ」

「そんなコトで汚いとか言うお客はうちに合わないんだから、放っとけばいい」

と耕二さん。


 耕二さんの言うことは充分に理解出来る。が、苛立つ。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る