第一章 真夏の衝撃




見下ろし、忍は尋ねる。


健二は、ゴロリと、背を向ける。


赤いタンクトップに、ジーパン姿の忍は、腰に両手をあて、呆れたように、息をつく。


そして、クルリと、背を向け、机に向かい、椅子に腰を下ろした。


引き出しから、眼鏡を取り出し掛けると、カバンの中から、数学の教科書とノートを出し、勉強を始めた。


健二は、そっと、振り向き、忍の後ろ姿を見つめた。


そして、今日見た、あの事を思い出していた。




部活の始まる前、中等部の校舎に行った健二は、誰もいない教室の中で、忍と女子が抱き合い、口付けをしているところを見てしまった。


女子の顔は、はっきりと見えなかったが、照れたように、顔を赤くしていた忍の顔は、よく分かった。


健二は、その事が気になって、仕方がなかった。


結構、おとなしい性格の忍が女子と、キスをするなど、不思議な気分だった。


不思議な気分と同時に、不愉快だった。


忍の事は、何でも知ってるつもりが、本当は、何も知らなかったのだと分かると、何となく、腹立たしかった。


『相手の女は、誰だったんだろう?』


そんな事を考えると、余計に腹が立ち、思わず、きつい口調になってしまう。


『どうしたんだ?俺……。何で、こんなに、イライラしてるんだ?』


自分でも分からないぐらい、健二は、腹が立って、仕方がない。


このイライラは、忍にではなく、相手の女子に感じていた。

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