桑中柔道部物語

脳病院 転職斎

第1話

2005年4月、

俺は山口県防府市立桑山中学校に入学した。


入学してから最初は、好きな文を書いていたかったので、小学生時代の文学仲間・村上に誘われて文芸部に入っていた。


そこで、短歌や俳句などでいくつか賞を貰っていたが、男の先輩は気持ち悪いヲタクのたく豚(とん)しかいないし、後は地味〜な女だらけで、ハーレムでもなんでもなかった。


スポーツの強豪校・桑中にいながら、なんで俺はこんなインキャな日々を送っている?


俺は家に帰って、ジャッキー・チェンの映画ばかり見るようになった。そのうち、俺もジャッキーのような強い男になりたいと考えるようになった。


そして9月の運動会が終わったあと、俺は小学からの友人に誘われて柔道部に入部した。


この物語は、それまで文芸部だったヒョロガリメガネが、体育会系の極み・柔道部に入部して、日本軍兵士のような過酷な日々を過ごした2年半の記録である。


〜シャバとのお別れ〜


柔道部に入ってすぐ、俺は洗礼を受けた。


「そこのヒョロいお前、今からこの100kgのデブ背負ってグラウンド一周しろ!」


そんな無茶な? 俺は体重53kgだぞ!


躊躇していると、先輩は肩に思いっきりパンチを浴びせてきた。


「あつつつ!分かりました!」


俺は100kgデブを背負った。そしてそのまま、

ウオオオ!


俺はグラウンドを一周した。

しかし、悪夢はこれだけでは終わらなかった。


「おーし、じゃあ今から空気椅子1時間!」


!!??


「何黙っちょんじゃ!とにかくやれ!」


はい!!

ぐおおお!!


これが柔道部か!

ここはまさに北朝鮮だった。


〜年功序列〜


キツい洗礼を受けた俺は、グラウンドに嘔吐した。


しかし、誰も振り向くことも無ければ、助けてくれることも無い。


翌日も、その翌日も、

俺は兎跳びで山を登らされたり、10m近い崖を登らされたりした。


しかし、ここでは先輩命令は神の命令。

絶対に従わなくてはならないのだ。


そんなある日のこと、

俺は武道場で着替えている時に、隣の女子テニス部のコートに全裸で投げ出された。そして、武道場の鍵を閉められた。


そして、先輩から命令を受けた。


「今から、マンコ見せてとデケぇ声で叫ぶまで、中には入れんけえの!ほら、叫べっちゃ!」


女子達の冷ややかな目線が俺に突き刺さる。


「俺は、マンコ見せてえええ!」

と、フルチンで絶叫した。


女子達はキャアア!ぶちキモいんやけど!と悲鳴をあげ出した。


そして、その日から俺の渾名は「露出狂」になった。


〜シゴキ〜


柔道部に入部してからというもの、

俺は、来る日も来る日も理不尽な目に遭った。


先輩に殴られて肉離れするは、自販機でジュース買おうとしてお金全部取られるは、BOOKOFFでふたりエッチ買わされるは、先輩の玩具として俺は生き抜いた。


そして、3年生も卒業し、

俺達が2年生になると、後輩が入って来た。


この屈辱はテメェらも味わわねえとな!


3年生になった先輩達が修学旅行に行った日、

武道場は俺達2年生と新1年生だけになった。


そして、俺は竹刀を持って1年生の前に立ちはだかった。


「よく聞けガキ共!

ここは小学校みたいな仲良しクラブじゃないんじゃ!今からテメェらに上下関係を叩き込む!まずはその場でブリッジ1時間だ!」


!!??


1年生達は鳩が豆鉄砲喰らったような顔をしている。


そして誰もブリッジをしようとしないので、俺は竹刀で一人一人シバいて無理矢理ブリッジの姿勢を取らせた。


「ガキ共、お前らはここで上下関係を覚えて大人になるんじゃ!ここで脱落した奴は明日から虫の死体食わせるからな!」


俺はブリッジをする後輩の腹の上に座って、地面に崩れようとしている奴を竹刀でシバき出した。


〜兄弟対決〜


柔道部では、

躾によって鍛えられ、躾によって武道戦士となる。


俺は先輩にシゴキ抜かれたが、腹筋6パックの細マッチョになっていた。


そして後輩達も山を兎跳びし、崖を攀じ登り、連日の腹筋や腕立て伏せやブリッジによって、筋骨隆々の最強戦士へと変わっていった。


そして、そんな俺も気付くと3年生になり、

もはや直接後輩に手を下す必要がなくなっていた。


そして、新しく新1年生が入って来たが、その中には実の弟の姿もあった。


俺は、周囲からの提案で、弟と乱取りした。


俺と弟は、しばらく取っ組み合って攻防したものの、開始1分も経たないうちに俺は、弟から一本背負いで投げ飛ばされてしまった。


一本!!!


勝敗のジャッジが響き渡る。

俺は天井を見上げて、涙を流した。


〜さらばシゴキ〜


そして月日は流れ、中学3年の夏休み、

俺は後輩達や弟を引き連れ、自転車で坂道を漕いでいた。


「あと5km先が富海の海水浴場じゃ!皆んな頑張れ!」


セミが鳴き、太陽が照りつける国道2号線、

中学生達はアクエリアス片手にペダルを漕ぐ。


そして坂を登り切ると、

目に染みるほどのブルー、周防灘が現れた。


ようやく富海に着いたー!!


俺達は海パン一丁で海に飛び込んだ。

今まで気が付かなかったが、後輩達は本当に良い奴らだった。


そして、笑顔を浮かべる俺を見て、

一番俺に仕えていた側近中の側近、Iが静かに呟いた。


「ワタル先輩、こうして歳の差を忘れて皆んなで遊んだ方が楽しいじゃ無いですか?もう馬鹿げたシゴキの伝統を無くしましょう!」


俺は何も言えなかった。ただ、黙って頷いた。


そうして、桑中柔道部のシゴキの伝統をIが停止させた。


それからシゴキの伝統は、弟達の代になって完全に消滅した。弟は、その中心人物となった。


季節は着替えられ、2008年の3月、

俺は卒業証書を受け取った。


花の色 雲の影

懐かしい あの想い出

過ぎし日の 窓に残して

巣立ちゆく 今日の別れ

いざさらば さらば先生

いざさらば さらば友よ

美しい 明日の日のため


風の日も 雨の日も

励みきし 学びの庭

かの教え 胸に抱きて

巣立ちゆく 今日の別れ

いざさらば さらば先生

いざさらば さらば友よ

輝かしい 明日の日のため

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桑中柔道部物語 脳病院 転職斎 @wataruze

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