その5 かくして神様は、今日もご機嫌である

 どうやら呪いは消えた、というか、結果的に「返した」ことになったらしい。

 なぜなら、入院していた名刺の女が急に亡くなったのだと、屋敷さんが言っていたから。

 いつの事かと聞いたら、ちょうど指輪が消えた頃だったらしい。

 屋敷さんたちは、「相良京子」の死因に疑いを持っていて、それが名刺の女と関連があるのではと考えているらしい。

 その疑いは、どうやら解決されることはないだろう。

 警察が「呪い返し」など非現実的なものを、「相良京子」の死因として認めるわけはないのだから。

 ただ、一点、屋敷さんも首をひねっていたのは、偶然にしろ、名刺に書かれた女の名が「相良さなえ」であったことだ。

 もちろん、相良姓など珍しくもないが、「相良京子」の隣に「相良さなえ」が住んでいた…… 私と同じ音である「さなえ」が住んでいた……

 これは偶然だったのだろうか?

 「相良京子」に親類は居ないらしいことは、警察も改めて調べたようだ。

 だが、凛子さんは以前、呪術師の一族が村の衰退とともに散っていったと言っていた。

 遠い過去に分かれた呪術師の一族が惹かれあったという事はないのだろうか。そして「相良さなえ」とは、時が時ならば、新たなヒルマモチとして選ばれる存在だったのではないだろうか。

 ……などと、愚にもつかない空想をしてしまう。きっと凛子さんなら笑い飛ばすことだろう。

 もうひとつ、呪いが今頃になって、そう、「相良京子」が死んでずいぶん経つのに、本当に、今頃になって発動したのはなぜなんだろう。

 これはさっぱり理由がわからない。「相良京子」は時限式の呪いをあちらこちらに仕掛けていたとでも言うのだろうか。

 これはいつか、凛子さんに相談してみようと思う。

 --また怒りながらも、きっと教えてくれることだろう。なんだかんだで優しいから


 帯刀編集長には、今回の一件について、かなりぼかした形にはなるが、例によって創作物として、レポートを提出しておいた。真実を伝えても信じてもらえないだろうから、流行りのモキュメンタリーを装っておいた。

 なぜあんなことをしたのかよくわからないと、編集部全員から謝罪を受けて、ケーキと金一封まで頂いてしまった。そして原稿料も、いつもより多かった。

 詳しくはわからないが、これも呪いの影響だったのだろう。私をターゲットにした呪いの。

 --はあ。 ……もう、いい加減にしてほしい


 早穂は、あれからご機嫌である。相変わらず朝昼晩とご飯を用意してくれる。フライパンはあれ以来、使ってはくれないので、やはりあれは特別な事だったのだ。ああ、なんて愛おしいのか。

 そして、なぜか毎日、部屋着が変わっているのが大変に愛らしい。雑誌のページをめくっていて、部屋着のかわいらしさに目覚めたようだ。


 とても良い傾向だ。

 だから、きっと……


 今日も明日も明後日も、良い一日に違いないのだ。

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