料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~
第30話 聖女ロメリー視点、ここまで……ですね。もう悔いはありません…………いえ、プリン食べたいです!(じゅるり)
第30話 聖女ロメリー視点、ここまで……ですね。もう悔いはありません…………いえ、プリン食べたいです!(じゅるり)
ワタクシは胸の前で聖杖を掲げ、深く息を吸いました。
夜の戦場は暗すぎます。このままでは、レイナさんやシゲルさんが本来の実力を発揮できません。
「女神グラティアの眷属である光の御子よ。我らが道を指し示したまえ。
――――――
祈りの言葉とともにワタクシのもつ聖杖から光が生まれ、瞬く間に夜空に広がっていきます。
まるで朝日が夜をはじき返すように、淡い金色の光が戦場全体を照らし始めました。
照らされた光景に、ワタクシは息を呑みます。
「なんて、大きさ……」
より鮮明に視界に入ってきた、ナイトコカトリスの全容。
人の背丈の数倍以上の体躯。
禍々しい黒の羽、石のように硬そうな鱗、そして不気味に動く蛇の尻尾―――
その全てがただそこに立っているだけで、生物を死に追いやる圧を放っていました。
これは間違いなく討伐すべき魔物です。
ここで討ち漏らせば、きっとまた誰かが失われる。そして悲しみが増える。
「―――っ!」
突然の光りに驚いたのか、ナイトコカトリスの一体が大きな翼をばさりと広げました。
ナイトコカトリスは飛ぶこと自体は得意でないはず。ですが、飛ばないわけではありません。
「まずいです! 森へ入りこまれたら―――」
「こらぁあ! 逃げるな食材~~~!」
シゲルさんが、包丁片手に森へ飛び込んでいく姿が見えました。
……いや、逃げてるわけじゃないと思うんですが。シゲルさんからするとナイトコカトリスでさえ食材なんですね……。
あちらはシゲルさんに任せることにします。
ワタクシたちには、この一体をなんとしても仕留めます!
「こっちも行くわよ、ロメリー殿!」
「はい! レイナさん!」
レイナさんが、白銀のシルバードレスをきらりと輝かせ、地を蹴りました。
風を裂き、銀の光がまっすぐにナイトコカトリスへ突っ込みます。
「はぁあああああ!」
「―――ギュアアアッ!」
ナイトコカトリスの叫びが響き、鉤爪が空を裂く。
レイナさんはそれを紙一重で回避し、刃を胴体へ滑らせるがガキッと鈍い音が響きます。やはり、あの鱗は相当な硬さのようです。
閃く爪、地面を砕く脚、尾の蛇が牙を剥き、ナイトコカトリスの猛攻がレイナさんを襲う。
でも……レイナさんは舞うように、しかし確実に攻撃を交わしながら切り返します。
凄い……綺麗な動き……思わず見惚れそうになってしまう。
あっといけないいけない、集中です。
ここまでは事前に話し合った通り。
ワタクシは光魔法を維持しながら、さらに魔力を練りはじめます。
「……準備は完了です。あとは待ちましょう」
しばらくして、レイナさんのシルバードレスがひときわ眩い光を発しました。
―――合図です!
「女神グラティアより賜りし聖なる光よ! 敵を撃て!
――――――
わたくしの放った光弾が夜空を走り、ナイトコカトリスへ襲いかかります。
レイナさんは事前のうち合わせ通り、華麗なステップで瞬時にその場から距離を取りました。
―――ドォオオン!!
「ギュギャァ!」
直撃です。黒い羽が焼ける匂いが風に混じりました。
しかし……光魔法を維持しつつの二重詠唱で威力は通常より多少落ちるとしても、上級魔法でも致命傷を受けませんか。
……やはり手強いですね。ですが~~
「まだまだいきますよ~~!!」
ワタクシは次々と光弾を撃ち続ける。
聖女の魔力をなめてもらっては困ります。バンバンいきますよぉ~~!
「ギュァ! ギャァ!!」
鋭い視線をこちらに向けて、獰猛なくちばしを上下させる怪物。
連続魔法攻撃により、ナイトコカトリスの注意が完全にワタクシへ移りましたね。
いまにもこちらに向かってくる体勢を整えるナイトコカトリス。
そこへレイナさんのシルバードレスが再び、きらりと輝いた。
―――合図ですね。
ワタクシは即座に魔法攻撃を止める。
その瞬間―――
「はぁあああああッ!!」
レイナさんが脇から再びナイトコカトリスに肉薄し、剣を叩き込む。
注意がワタクシに向いていた魔物は不意を突かれたか、ぐらりとその巨体を揺らしました。
そう。これが、ワタクシたちが決めた戦闘スタイル。
レイナさんが前衛、わたくしが後衛。これが基本です。
そして攻撃の主導権は常にどちらか一人。
サインで交代。
レイナさんはS級冒険者として、高い近接攻撃を繰り出すことができます。
対するワタクシも回復魔法が得意ではありますが、聖属性の攻撃魔法もかなりつかえます。
前回は、なんのサインもなかったので、強力な攻撃が被ってしまったりお互い「遠慮」してしまい、力を出し切れなかった。だから今回は、明確でシンプルな役割分担を選んだのです。
攻撃する時は原則どちらががしよう。と。
本当はよどみなく各自の判断でサポートに入ったり、時により同時攻撃などができればより良いのでしょうが。まだ互いの攻撃パターンもあまり知らないですし。今回は分かりやすさでいくことになりました。
できることからやる。まさしくシゲルさんが言ってたことですね。
ふぅ……今のところ問題なく機能してます。
ワタクシが次弾の魔法攻撃に魔力を練り上げていると。
「―――っ!」
蛇の尻尾がレイナさんの足をはじいた―――。
その場で動きが止まるレイナさん。おそらく蛇の牙がかすったんだ。
「レイナさん!!」
いけない、かすっただけとはいえナイトコカトリスの蛇には猛毒が……
わたくしは光魔法を片手で維持したまま、もう片方で光弾を放ちました。
倒れたレイナさんとは反対側の地面に。
さらに、その周囲にをバラバラと光弾を巻きます。中級魔法に威力をさげて、できるだけ多く。
ナイトコカトリスの注意がその爆発に向いている隙に、レイナさんの元へ駆け寄る。
「―――
緑の毒がすぅっと抜け、傷が閉じていく。
「助かった、ロメリー殿。にしても凄いな……光魔法を継続しているだけでも大変だろうに」
「いえ……不測の事態は各自判断で対処、そう決めてましたから。」
「ふふ……とにかく助かったわ。じゃ、もうひと踏ん張りして―――こいつを仕留めるわよ!」
「ええ、もちろんです!」
再び戦場へ戻る。
ワタクシたちは、確かに連携を成していた。
致命傷ではないにせよ、ナイトコカトリスへの確実にダメージは蓄積している。
このまま続ければ、やれるはず。
そう思っていた矢先……
「―――――ギュアアアアア!」
ナイトコカトリスのとさかが、妖しく光り始めた。
「……ッ! あれは―――石化の邪光!」
「レイナさん、下がってください!!」と声をあげたが……
ダメだ、間に合いません!
結界を展開するには時間が足りないし、レイナさんが離れすぎてる。
だったら……
ワタクシは光の光弾を放った、レイナさんに向けて。
威力は調整しました。彼女なら耐えれれる衝撃です。
光弾が命中して、レイナさんがナイトコカトリスの射線から消える。
その瞬間―――
怪しい光がこちらに降り注いだ。
邪悪な光がワタクシの身体を飲みこむ。
肌が石に変わる感覚―――冷たく、硬く、重い。
でも。
悔いは……
ありません……
最後に、自分が本当にしたかったことが……できました……。
―――悔いは……ない?
本当に?
……もし、最後に願いが叶うのなら。
プリン……
食べたい。
……って、ワタクシの最期の言葉これですか!?
もっとこう! 聖女っぽいやつとか――!!
でも……
でも……でも……
食べたい。
食べたい、食べたい、たべたいぃぃぃ!!!
―――バリン!
「…………へ?」
ワタクシの重いまぶたがゆっくりと開いた。周囲はまだ明るい。
光魔法は継続している。
つまり。
ワタクシ。
石化を解除した……? 自力で??
「な、なんですかこれぇえ!? まるでシゲルさんじゃないですかぁ!!」
ど、どうしましょう……
プリン食べたいって石化が解除できるだなんて……!!
どういう理屈ですか? 無茶苦茶すぎます……
「ふぁあ……もしかしてワタクシ……
シゲルさん側の人間に……近づいている!?」
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