料理バカおっさんの転生ド田舎食堂物語。前世で散々こき使われたので、今度こそ好きなことしかしないと夢中で飯を作っていたら、S級美人冒険者や聖女が常連になっていた~なお、知らぬ間に包丁一振りで世界最強~
第2話 ひぃいい、ドラゴンを包丁で切ったぁ(S級美人剣士)。いや、これ食材だから(おっさん)
第2話 ひぃいい、ドラゴンを包丁で切ったぁ(S級美人剣士)。いや、これ食材だから(おっさん)
ド田舎食堂を飛びだして、全力で走る俺。
あっという間に辺境の町メタリノが後方に消えていく。
前方に深い森が見えてきた。
王国辺境に広がる魔物たちがすくう森だ。
「くんくん―――ははっ、やっぱここはいいな」
食材のにおいがしまくりだ。
この異世界に転生してから、俺はその時間のほとんどを料理と食材集めにつぎ込んだ。
前世と大きく違うところは、魔物の存在。
魔物とはこの世界における害獣だ。基本的に人間に害をなし、殺戮を好むやつも多い。人間にとっては共存不可能な「敵」として認識されている。
だが―――
食ってみるとこれがなかなかにいける。
調理次第では、通常の食材をはるかに超えるポテンシャルを発揮するのだ。
だから、ド田舎食堂をかまえるまでは、料理の腕を磨くのと並行して、食材さがしに明け暮れた時期もあった。
俺は走りつつも、複数の魔物の気配を感じていた。
いるいるぅ~~ここは宝の山だな。だが……
こいつらは今日のお目当てじゃない。
さらに奥へと走って行くと。
「―――グォオオオオオオ!」
遠くから聞こえる咆哮に、森が揺れる。
おお、この鳴き声は―――
速度を速めて声の方に足を飛ばすと、ひらけた盆地にでた。
俺の視界に入って来た巨大な食材(魔物)。
「いたいたぁ~~!!」
今日のお目当てを見つけた俺は、思わず大声をあげてしまった。
んん?
が、そこにいたのは食材だけではなかった。
「――――――はぁああ!」
燃えるような赤髪を風になびかせた女剣士が、魔物と戦っていた。
気合の一声とともに、彼女が身にまとった白銀のドレスアーマーが輝きを増し、魔物の周囲を飛びまわる。
強化魔法の一種だろうか。俺はあんまよく知らんけど。
「はぁはぁ……くっ……まだまだぁ!」
女剣士は荒い息づかいともに、魔物に接近しては剣を振るう。
が、その攻撃はことごとく弾かれていた。
「―――ギュラァアアアア!!」
魔物の攻撃は激しさを増し、その猛攻に耐え切れなかったのかいったん距離を取る女剣士。
後退した彼女が俺の存在に気付くと。
「な? こんなところでなにしてんの! はやく逃げなさい!!」
美人剣士の鮮やかな赤い瞳が、鋭く俺を射抜く。
綺麗な瞳だな……まあ、多少疲れが見える気もするが。
「なにボサッっとしてんの! はやくしなさい! 殺されるわよ!」
再度女剣士が腕をあげて、逃げろとアクションを取った。
ドレスアーマーの隙間から覗く胸元が豊かに揺れた。鍛え上げられた腹部の引き締まりと対照的に、たおやかな曲線を描く胸元はなかなかに破壊力がある。
俺の視線に気づいたのか、女剣士の眉間にしわが寄った。
「なに? あんたこんな時にふざけてたら先に斬るわよ」
「いや、ふざけてなんかいない。俺もあの魔物に用があるからな」
「コック帽かぶったおっさんがなにを言ってるの? 胸を見たことは特別に見逃してあげるわ。とにかくここはあたしが時間を稼ぐから早く逃げなさい」
「時間を稼ぐ……ということは、この獲物。俺が頂いていいんだな?」
「獲物ですって? こいつは近隣の町を焼き払った要危険個体なの! 人を殺すことに味をしめたよりヤバイやつなのよ! あたしでも手に負えないのに、あんたじゃ確実に死ぬわよ!」
そっか、ぶっちゃけ別の探しに行くかと迷ったんだが。この子の獲物ではないと。
なら遠慮は無用だな。
「わかった。では俺がもらうぞ」
「はぁ? わかったって? さっきから何を……」
これで横取りにもならない。
かなりの上物だから、できることならゲットしたかったし。
んじゃま―――
俺は懐から一本の出刃包丁をだした。
「ほ、包丁? あんた、頭おかしいの!」
「いたって正常だよ。ちょっと下がってろ」
「ふざけないで! 相手は――――――ドラゴンなのよ! しかもドラゴンの中でも上位種のレッドドラゴンよ!!」
俺は力強く地を蹴りながら言う。
「知ってるよ……だが、食材を前にして逃げる料理人がどこにいる?」
こいつがドラゴンなんてことは百も承知。今までどれだけの食材を狩ってきたか。獲物の見間違いなどするわけがない。
そう言いながらも―――その瞬間!
「グルァアアアア!」
ドラゴンが咆哮を上げ、その太い尻尾を鞭のように振り回してきた。轟音と共に砂埃が舞い上がる。
「よっと!」
身を屈めて回避。尻尾が頭上を通過すると同時に―――尻尾の付け根に包丁の刃を滑り込ませる。
「―――ふんっ! 出刃一閃っ!!」
―――スパァアアンと綺麗に切り離された尻尾が宙を舞う。
「ほぉ、脂ののりがいい! 極上テールだな! 煮込みでじっくり煮出せば濃厚テールスープ……いや、趣向を変えてカレーの具にもいいかもしれん」
やべぇええ、テンション上がってきた。
「ギュルラァアアア!!」
痛みと怒りで、大きな翼を広げて上空に飛び立とうとするドラゴン。
おっと、そうはいかん。
「―――ふんっ! ふんっ!」
二筋の刃閃が走った途端に、その翼は2つとも地に落ちる。
「おぉ、筋肉が詰まっているが薄切りにすれば立派な手羽先だな。皮目をパリッと焼いてレモンを絞れば、酒が進む味になる!」
「―――ギュラグロオオオオオ!!」
飛び立てなくなったドラゴンがその大きな口を開いて、真っ赤な光を集中させはじめた。
ブレスか――――――
俺は地を蹴り一気にドラゴンの側面に回り込んだ。
こちらへブレスを放とうと、首を曲げるドラゴンだったが……
……遅いんだよ。
「ふんっ! ――――――出刃ぶつ切り乱閃!!」
出刃包丁の刃閃が幾重にも重なり、ドラゴンをぶつ切りにする。
最後の断末魔をあげることも出来ずにその赤い巨体は細切れになった。
よし、これで最高のかつ丼作れるぞ。
さらに、色んな部位をゲットしたから。あれもこれも……やべぇワクワク止まらんわ。
さぁ~て、マジックサイドポーチにお肉を回収しないとな~。
俺が準備をしようとウキウキしていると、後ろから変な鳴き声が聞こえた。
「ほ、ほ、ほ、ほ、ほ……」
んん? なに? 新たな魔物か?
違った。
俺が振り返ると、女剣士が直立不動で固まっていた。
おい、まだいたのかよ……
まさか気が変わったとか言うんじゃないだろうな。また次の探してたらコレットのまかないに間に合わんぞ。
「どうした? 俺がもらって良かったんだよな?」
彼女の目は丸く見開かれ、額には大量の汗。
え? なに、ちょっと怖い……
「ほ、ほ、包丁で――――――ドラゴン切ったあぁあああああ!!」
あ、なんだ。横取りするなと言ってるわけじゃないのか。
まあ、彼女の動きを見る限りあのドラゴン相手はちょっと厳しそうではあったが。
俺の手にした出刃包丁をガン見してくる女剣士に、俺は言う。
「当たり前だ。食材を切る道具は、包丁って相場が決まってるからな」
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